公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

有元隆志

【第661回】超党派の中国政策諮問機関設置を

有元隆志 / 2020.03.09 (月)


産経新聞社正論調査室長兼月刊「正論」発行人 有元隆志

 

 中国の習近平国家主席の国賓としての来日が延期となった。武漢ウイルスの終息の見通しが立っていない中で当然のことである。日本政府担当者は延期決定後、筆者に次のように語った。少々長くなるが引用する。
 「中国の人権問題はわれわれも問題視している。昨年末の首脳会談で安倍晋三首相は習主席に香港や新疆ウイグル自治区における人権状況に懸念を伝えた。事前に王毅外相から言及しないよう要請されたにもかかわらずだ。事務レベル協議でも取り上げたが、中国側は明治33(1900)年の義和団事件に出動した日本などには中国の人権問題を批判する資格はないと反論した。清国時代の出来事なのだが。人権問題で聞く耳を持たない国の元首を招くべきでないという月刊『正論』の主張はわかる。かといって、国賓でないと国家主席は来ない上、主席でないと物事は進まない。非常に悩んだ」

 ●習氏来日延期は政策見直しの好機
 この当局者は2008年の胡錦涛国家主席(当時)の国賓来日時と比べ、中国の国内総生産(GDP)と国防費が3倍になっている現実も直視すべきと付け加えた。もちろん、当局者が言うように、現実を踏まえながら日本の望む方向に中国の変化を促すことができれば望ましい。だが、日本側が期待するような結果になるか甚だ疑わしいことは、訪日が迫っても沖縄県の尖閣諸島周辺に中国海警局の船が連日やって来たことからも明らかだろう。
 併せて日本政府元高官は「市場経済と私有財産制の廃止によって経済計画を国家に委ねるというのが共産主義だが、中国はこれを放棄した。残るは言論統制しかない。武漢ウイルスを機に国内の締め付けを一層強化するだろう」と予測する。
 戦後、米国の指導者は民主主義を世界に普及させることに努めた。しかしながら、中国では民主化が実現しないどころか独裁体制が強化されている。こうした中国にどう向き合うか、国賓来日の延期を機に、これまでの政策の見直しを抜本的にそして包括的に図るべきだ。

 ●参考になる「米中経済安保調査委員会」
 参考となるのが、米議会に設置されている超党派の諮問機関「米中経済安保調査委員会」だろう。米中経済関係や貿易が米国の安全保障にどう影響するかを調査し、米議会と政府に政策上の勧告をすることを目的に2000年に常設された。中国の外交、軍事、経済に詳しい12人の専門家が年次報告書を発表する。
 昨年9月、ロビン・クリーブランド副委員長(現委員長)は公聴会で「米中対決は東アジアの同盟国にとって米国か中国かの選択ではない。自由、人権と公正な規制に基づく貿易システムか、専制的な政治システムの自国中心の帝国主義的な経済かの選択なのだ」と述べた。二階俊博幹事長のような「媚中派」が幹部を占める自民党はまず、同委員会の報告書を学ぶべきだろう。(了)