運転開始から44年経つ関西電力美浜原子力発電所(福井県美浜町)3号機が10年ぶりに再稼働した。朝日新聞と東京新聞はこれを「老朽原発」と決めつけ、すぐにも事故が起きそうな印象操作をした。
しかし、2013年に改正された原子炉等規制法により、運転開始から40年を経過した原子炉は、運転期間を1回に限り最大20年延長することが認められている。全ての原発は定期検査や10年ごと、そして30年目に特別点検が実施され、高経年化対策評価の厳格な審査を受ける。原子炉内の圧力容器や配管の腐食、亀裂の有無などが徹底的に調べられ、異常があれば新品と交換される。これによって原発は常に新品と遜色ない品質を確保しているのだから、リニューアルプラントなのであり、老朽とはとんだ言いがかりである。
●脱原発ウクライナのわだちを踏むな
朝日新聞など脱原発を主張する日本の一部マスコミや、それに同調する政治家と一般国民に知ってほしいのは、脱原発政策で産業と経済が崩壊したウクライナの悲劇である。
ウクライナは、ソ連時代の1986年に領内で起きたチェルノブイリ原発事故のあと独立し、1991年に原発の新規建設を禁止する脱原発政策(モラトリアム)を決定した。ところが、電力網が不安定となって停電が多発し、主力産業の製鉄と造船の工場の操業が途絶え、重工業が壊滅した。大勢の人が職を失い、飢え死や自殺が急増した。
ウクライナは1992年にモラトリアムを破棄し、西側先進7カ国(G7)の経済支援を受けることになった。しかし、一度壊滅した産業は復活せず、農業国となった。ウクライナの悲劇はチェルノブイリ原発事故よりも、脱原発政策で産業と経済が崩壊したことだ。建造を中断した空母がスクラップとして中国に売却されたことは記憶に新しい(この空母は中国で改修され、同国初の空母「遼寧」として就航した)。
●電力料金高騰が産業を壊滅させる
2011年の東京電力福島第一原発事故当時、日本に原発は50基あったが、今までに再稼働したのは今回の美浜原発3号機を含めて10基にとどまる。過去10年間、原発が実質的に停止していた影響は甚大だ。電力料金の値上がりで太陽光パネルのシェアは中国に奪われた。世界の原発建設を主導していた日本の3大メーカー(日立製作所、東芝、三菱重工)が輸出していた原発や火力発電設備は、電炉を使って製造している大型鋼鉄部材の価格が高騰したため、競争力を失い輸出が停止した。電気自動車の販売台数も中国と欧州に大きく引き離された。
安定した安価な電力こそが産業の原動力だ。再生可能エネルギーの不安定で高価な電源では、国際競争に負ける。今や圧倒的な資源と工場の製造能力を身につけた中国に負けないため、そして2030年度の温室効果ガス排出量を2013年度比で46%減らすとした日本政府の目標達成のため、原発の再稼働と40年超え運転、さらに新増設・リプレース(建て替え)がどうしても必要である。ウクライナのように産業を壊滅させないためには、再エネ至上主義政策を見直すべきだ。(了)