公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

髙池勝彦

【第807回】夫婦同氏制は女性差別でない

髙池勝彦 / 2021.06.28 (月)


国基研副理事長・弁護士 髙池勝彦

 

 6月23日、最高裁大法廷は、「夫婦は、結婚の際に定めるところに従い、夫または妻の氏を称する」と規定した民法750条は憲法に違反しないと判断した。夫婦が望む場合には結婚後もそれぞれ結婚前の氏を戸籍上選べる選択的夫婦別氏制を排斥したのである。
 多数意見は、平成27(2015)年12月16日の大法廷判決を踏襲し、「夫婦の氏についてどのような制度を採るのが立法政策として相当かという問題と、夫婦同氏制を定める現行法の規定が憲法24条に違反して無効であるか否かという憲法適合性の審査の問題とは次元を異にする」といふ。

 ●夫婦の絆・家族の一体性の源
 裁判官15名のうち4名は、民法の規定は婚姻の自由や「両性の本質的平等」を定めた憲法24条に違反するとした。
 多くのマスコミも、「望む結婚ができるまであと何年かかるのか」などといつて、この反対意見に同調してゐる。
 反対意見は、選択的夫婦別氏制の導入等に関する国民の意識の変化などを挙げてゐるが、多数意見は「国民の意識がいかなる状況にあるかということ自体、国民を代表する選挙された議員で構成される国会において評価、判断されることが原則」であり、いまは国民の意識はそこまでいつてはゐないといふ。
 選択的夫婦別氏制を主張する者は、夫婦同氏制は世界中で我が国だけであるなどといふが、我が国の夫婦同氏制は戸籍制度と密接な関係を有し、欧米では戸籍制度を持たない。我が国の戸籍制度は、家族の一体性という国民の意識と深くかかはつてをり、夫婦は婚姻によつて同じ氏を名乗ることにより夫婦の絆を感じ、生まれてくる子供たちも同じ氏を持つことになり、家族のアイデンティティを持つことになる。夫婦が別氏であれば、生まれる子供はいづれかの親と氏が異なることになる。

 ●旧姓使用の不便さ解消に努めよ
 かつてのやうに、日常生活のあらゆる場面で夫婦同氏を強制されるのであれば、結婚によつて氏を変更した者、多くの場合は女性の側の受ける不利益が大き過ぎるが、旧姓を通称として使用することを認められる場面が多くなつてきてゐるので、むしろ選択的夫婦別氏制を取る必要性が減つたともいへるのではないか。通称使用で今なほ不便さが残るといふのであれば、不便さをできるだけ解消する方向を考へるべきであり、戸籍面の同氏にこだはる必要はない。
 反対意見及びマスコミの多数が代弁する選択的夫婦別氏制論者は、結婚前の氏を通常は使へるにもかかはらず戸籍の記載の評価を誇張してゐる。
 反対意見やマスコミは、次は国会で選択的夫婦別氏制を導入すべしと強硬に主張するが、国会は、選択的夫婦別氏制導入の功罪と通称使用の不便さの除去を徹底的に議論すべきである。(了)