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奈良林直

【第806回】台山原発希ガス漏洩にみる中国の隠蔽体質

奈良林直 / 2021.06.21 (月)


国基研理事・東京工業大学特任教授 奈良林直

 

 中国南部の広東省にある台山原子力発電所1号機から放射性物質が漏洩した。1号機は2018年に運転を開始した最新鋭の欧州加圧水型原子炉(出力165万キロワット)で、漏洩について中国当局の情報開示が遅れ、隠蔽体質を感じさせる事例となった。

 ●情報開示は報道の2日後
 漏洩が明るみに出たのは6月14日、原子炉を中国に輸出したフランスの原発メーカー、フラマトム社(旧アレバ社)から米政府に対し、「放射性物質による差し迫った脅威」に関する警告があった、と米CNNが報じたことによる。
 この報道から2日後の16日、中国の原子力規制当局である生態環境省は、燃料棒の破損により冷却材中の放射性物質の濃度が上昇したと発表し、1号機の全燃料棒のうち0.01%未満の「5本前後」が破損したことを認めた。炉心には241本の燃料棒からなる燃料集合体が265体あるので、63,865本の燃料棒がある。0.01%であれば確かに5本前後であるが、原子炉の蓋を開けて点検しなければ、確実なことは言えない。
 このように今回、CNNの報道をきっかけに情報が小出しに出てきた。我が国や欧米であれば、放射線量の上昇を検知した段階でマスコミに広報する。中国ではそれがなく、新型コロナウイルス発生時にも批判された隠蔽体質が顔を出す。
 漏洩した希ガスの代表はキセノンとクリプトンだ。もし、冷却材喪失事故や原子炉冷却ポンプの故障が発生したのであれば、これは速やかに国際原子力機関(IAEA)に報告されるべき事故である。しかし、米国もIAEAも、フラマトム社からの情報提示を受けて、そうした事故であることを否定している。米政府は「危機的なレベルではない」とし、フラマトムの親会社であるフランス電力(EDF)も「管理された放出」だと言っている。
 急に希ガスの濃度が上昇したとすれば、燃料棒の被覆管の損傷であり、異物が燃料を固定する燃料格子などに引っかかり、振動で被覆管に穴を開けたと思われる。漏洩した希ガスは原子炉の冷却水に混入し、次いで、補助建屋にあるガス減衰タンクに送られる。1カ月もすれば1000分の1に減衰して、排気筒から放出可能となる。フラマトムが警告した「差し迫った脅威」とは、このタンクが満杯になったのではと推測されるが、公表されていない。

 ●独走にブレーキを
 中国では現在、47基の原子炉が運転中で、その総発電容量は米国とフランスに次ぎ世界第3位の4,875万キロワットとなった。将来的に200基を建設する計画で、既に多数の国と輸出交渉をし、英国やフランスの原発建設にも出資している。広域経済圏構想「一帯一路」の主目的の一つが安価な原発と石炭火力発電所の輸出だ。石炭火力の輸出は国際シェア53%に達し、我が国は敗退した。
 世界一のエネルギー大国にのし上がろうとしている中国の独走に、「原発の安全第一」の観点から国際社会がブレーキをかける必要がある。まず、原発に異常があった場合の速やかな情報開示と、稼働を一時停止して点検する取り組みを求めたい。(了)