公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

【第56回】目標不明の内閣

遠藤浩一 / 2010.09.21 (火)


国基研理事・拓殖大学大学院教授 遠藤浩一

「有言実行内閣」との触れ込みで発足した菅改造内閣だが、何を実行しようとしてゐるのか、よく分からない。まづ、政略的に中途半端だ。世間では「小沢外し」とか「脱小沢」とか騒がれてゐる。

確かに「挙党一致」といふには偏りが目立つけれども、さりとて本気で小沢グループとたもとを分かち、政界再編に踏み出さうとする布陣にも見えない。

菅直人首相及びその周辺の狙ひは、小沢グループの解体(小沢一郎氏の孤立化)なのだらうが、人望・定見無き指導者によつて繰り出された小策が、うまくいつたためしはない。

方向性見えぬ重要政策
政策の方向性もよく分からない。首相は17日夜の記者会見で、①景気・雇用・成長・金融・財政 ②国際社会における活動 ③地域主権―の三つを当面の重要課題として強調した。しかし、具体策は不明だ。

「内閣における経済の司令塔」を海江田万里経済財政相に任せるといふことだが、無利子国債の発行を主張する海江田氏と、それに消極的ないし否定的な菅首相・野田佳彦財務相・仙谷由人官房長官の間で、今後どう調整が進むのか見ものだ。その過程で真の「司令塔」がはつきりする。

片山義博総務相も新内閣の〝看板〟らしいが、その片山氏に首相は「地域主権3法案」の早期成立を指示した。しかし、片山氏は従来この法案に批判的で、とりわけ主要閣僚と全国知事会など地方6団体代表が話し合う「国と地方の協議の場」の法制化については「天下り団体を政府の協議団体として法律に位置づけるのか」と反対してゐた。

ところが同氏は大臣ポストを手にするや、「必ずしも理想とするところではないが、何事も着実に前進だ」(17日の記者会見)と、あつさり転向して見せた。〝看板倒れ〟にならなければいいが。

前原外相の対中姿勢に期待
尖閣諸島に対する中国の領土的野心がいよいよ鮮明になる中で、前原誠司氏を外相に据ゑたのはよかつた。中国は菅政権の出方をうかがつてゐる。挑発し、圧力をかければ膝を屈するといふ〝実験結果〟を得ようとしてゐる。

前原外相の「日本の法律に則つて粛々と対応する」「(ガス田掘削について)何らかの証拠が確認されたら、しかるべき措置を取る」といふ「有言」を、粛々と「実行」してほしい。

国会をサボつてソウルの反日デモに参加したり、「外国人犯罪は軽微なものが多い」と放言したり、北朝鮮籍や韓国籍の外国人から違法献金を受け取つたりしたやうな人物(岡崎トミ子氏)を国家公安委員長に任命した人事には、あいた口がふさがらない。さすがに拉致問題は柳田稔法相に兼担させることにした。

私は、柳田氏が20年前に国会議員に初当選した頃から、顔と名前、麻雀が大好きらしいといふことは承知してゐる。が、今日に至るも、寡聞にしてこの人の政治家としての経綸けいりん抱負を知らない。したがつて拉致問題にどう対応するのか、見当がつかない。拉致問題担当相の職務は不当にかどわかされた同胞を救出することである。「私」を棄てて健闘されることを祈る。(了)

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第56回:目標不明の内閣(遠藤浩一)