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岩田清文

【第873回】「真に国民を守り抜く」体制構築に本気度を示せ

岩田清文 / 2022.01.17 (月)


国基研評議員 岩田清文

 

 昨年10月、台湾の国防部長(国防相)が、2025年には中国の全面的侵略が可能になるとの認識を示した。また昨年6月、米上院軍事委員会においては、2027年以降は中国の台湾侵攻が可能なレベルに上がるとの答弁が米インド太平洋軍司令官により行われた。これらを前提にすれば、最悪の場合、2025年~2027年以降、中台紛争勃発の危険度が高まる。

 ●迫りくる日本有事
 台湾有事となれば日本も有事となる。与那国島など沖縄県の先島諸島は中台軍同士の戦闘領域となり、また日米を離間する目的で、サイバー攻撃、経済恫喝、政治工作、そしてフェイクニュースなどの情報工作により、日本列島全体が中国のグレーゾーン攻撃(武力攻撃に至らない攻撃)を受けることとなる。最悪の場合、核攻撃の恫喝も覚悟する必要がある。
 米国の力も相対的に弱くなりつつある。昨年4月、米上院軍事委員会において、米戦略軍司令官は、中国に対する米国の核抑止の限界を明らかにした。さらに昨年、米インド太平洋軍司令官が、通常戦力においても中国軍の西太平洋への覇権拡大を阻止できない可能性を国防総省に報告したとされる。 
 このように、日本有事が迫りつつある時、そしていざという時は米軍が助けてくれるから大丈夫という時代が過ぎ去ろうとしている時、我が国は何をなすべきなのか。
 今年末には、国家安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画が決定されるが、これらは我が国の命運を左右し、生存・発展を保障する基本方針である。我が国の防衛力が真に「戦える」「守れる」ものとならなければ、中国に飲み込まれる運命が待っているとの危機意識を持つべきである。

 ●危機意識欠く数字論議
 2021年度防衛費の対国内総生産(GDP)比が日本政府の基準で0.95%、北大西洋条約機構(NATO)の基準で1.24%になるとの報道があるが、米中新冷戦の最前線が日本であるという厳しい現状において、1%にこだわること自体、安全保障環境の変化に対する危機意識が欠如している。
 また、12月31日の日経新聞記事のように、中国軍などと同様、陸上防衛力を削減すべしとの論調も聞く。国外に覇権を拡大しようとする国と、国土防衛を基本とする我が国の戦略が全く違う中、両者の陸海空比率を単純比較するのは戦略的思考の欠如、そして国土防衛の本質を無視した意見である。
 どちらも数字ありきの議論となっているが、大事なことは、「これで本当に国民の命を守れるのか」という視点ではないのか。今、日本が直面している危機に正面から向き合い、「真に国民を守り抜く」体制構築のため、本気度を示す時である。(了)