国基研副理事長 田久保忠衛
沖縄県知事選挙は接戦と言われてきたが、仲井真弘多知事が意外な大差で勝った。沖縄県民には焦点のはっきりしない選挙ではあったけれども、国際情勢の中でいま日本がどのような立場に置かれているのかが分かっているからこの結果になったのだろう、と思う。危機を切り抜けた判断に改めて敬意を表したい。
真の争点は安保条約の是非
大方のマスメディアならびに沖縄タイムス、琉球新報の二紙を中心とする現地のメディアはおかしい。仲井真知事と伊波洋一前宣野湾市長の両候補の争点は、米軍普天間基地移設問題で前者が「県外」、後者が「国外」だなどと解説したところが多かった。そうではなく、基地問題に名を借りた日米安保条約の是非を問う重要な選挙が行われたのだ。
伊波氏は昨年11月10日に東京・有楽町の日本外国特派員協会で記者会見をした。私はその現場にいて、同氏が「私はグアムや韓国へ行って米軍を追い出す動きをしている」と語っているのをこの耳で聴いた。記者席には普段見かけない外国人が何人か交じっていて、「世界の仲間と連帯して『ヤンキー・ゴーホーム』を唱えるべきだ」とアジ演説をしていたから、記者会見とは名ばかりで、国際的な米軍基地反対運動家の集会だったのではないかとの印象を抱いている。
仮に伊波知事が出現していたら、「国土のわずか0.6%の県に在日米軍基地の74%が集中している」と大声を張り上げて反基地運動に手を貸すだろう。日米同盟は根本的に揺らぐ。
尖閣に迫る中国の「脅威」
反基地運動が強まって民主党内には手をたたいて喜ぶ向きもいる。菅直人首相は立場上困るに違いない。反基地運動は、表面上は「反米」の動きだが、実際には「反日」につながっている。中央政府を揺さぶると、大方の政治家はこれまでカネで始末をつけようとしてきた。
東京、那覇間には何か事あるごとに那覇が大声を上げ、東京がこれを鎮めるために財政支出で決着させるパターンができ上がったように観察される。中国の反日デモが実際は「反政府、反共産党デモ」であることと類似している。
仲井真知事には是非、大局的判断に立って日米同盟を強化してほしい。当選直後に「県内移設は事実上もうない」などと発言しているが、これでは困る。中国の「脅威」は沖縄の尖閣諸島に迫っている。中国の海洋戦略にはインドや東南アジア諸国連合(ASEAN)が警戒し、ノーベル平和賞受賞者の劉暁波氏への弾圧は世界を震撼させた。沖縄の漁民が困る、困らないの話ではない。日米同盟強化が国として必要なのだ。(了)
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第66回:沖縄知事に望む日米同盟の強化(田久保忠衛)