国基研理事長 櫻井よしこ
市内の広大な土地を中国政府に売却するか否かで新潟市が大きく揺れている。
問題の土地は新潟駅から500メートルの市中心部に位置する万代小学校跡地で、約5000坪である。これを総領事館建設用地として中国に売却し、最近閉店した百貨店跡地も売却して中華街を作りたいと、新潟市長の篠田昭氏らは考えている。
尖閣は「小さな事件」?
私は10月末に新潟県を訪れ、初めて計画を知った。調べると、疑問視せざるを得ないことが幾つもあった。第一は、市と中国政府の交渉が、住民への十分な説明も納得もなしに進み、売却が既定路線化しようとしていたことだ。
第二の疑問は、市中心部の広大な土地を中国所有に帰すことの政治的妥当性だった。尖閣諸島の日本領海侵犯事件に続くレアアース輸出停止、フジタの社員4名の拘束、民間交流のキャンセルなど、わが国固有の領土である尖閣諸島を手に入れるために、中国は異常な振る舞いに及んだ。王華総領事は、尖閣は「小さな事件」で、それにとらわれずに日中友好を進めるべきだと語ったが、尖閣は中国が力の限りを尽して日本を恫喝し、手に入れようとした国家主権にかかわる領土問題であり、「小さな事件」どころではない。
中国は北朝鮮の日本海に面する最北の港、羅津港の50年に及ぶ租借権を5年前に入手し、史上初めて日本海への直接の出入り口を得た。羅津の目前が新潟港だ。その海には膨大な量の次世代エネルギー源、メタンハイドレードがある。冬期、山々には深い雪が積もり、最高級の酒を生み出す豊かで美味なる水となる。地理的にも資源的にも、新潟は中国が最も欲する日本の県の一つである。だからこそ、土地売却には慎重でなければならない。
中華街建設から始まる勢力拡大
私は『週刊新潮』のコラム「日本ルネッサンス」で同問題を提起した。反響は大きく、市への問い合せは1000件を超えたと聞く。
11月18日、篠田市長が土地売却の凍結を発表した一方で、中国は現在の総領事館で「3年から5年」業務を続ける予定としている。市民の反対の沈静化を待って、数年後に再度土地買収を考えるということであろう。
もう一つ、長岡市が上海万博に出品した山古志の錦鯉は10月15日、2日半の展示後、病気でもないのに「病気だ」と通告され、水槽にドボドボと毒を入れられ、殺された。
共産党が支配する異質の国、中国の、他国への勢力拡大は、相手国の価値観の無視、広大な土地の入手と中華街の建設から始まるのが定型である。このことを心に刻み、中華街建設による繁栄などという幻想に新潟市は頼ってはならないのである。(了)
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第65回:中国に国土を売り渡すことの愚 (櫻井よしこ)