公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第68回】米になお残る中国への甘い認識

田久保忠衛 / 2010.12.13 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

米「フォーリン・アフェアーズ」誌(11月~12月号)は有力な論者による論文を数多く掲載して光彩を放った。わけても、今の日本人が興味を示す中国に関する論評は警戒論と楽観論の二つを紹介して、あとは読者の判断に委ねている。

尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で中国がいかに理不尽な対応をしたかに怒っているわれわれにとって、警戒論は援軍になるが楽観論は説得力に乏しい。にもかかわらず、米国内には中国に対する甘い認識が歴史的に存在してきたという事実は銘記しておかなければならないだろう。

「中国は外交革命期」と警戒論
警戒論は米国最大のシンクタンクで「フォーリン・アフェアーズ」誌を出版している米外交問題評議会の上級研究員でアジア部長でもあるエリザベス・エコノミー女史が書いた「ゲーム転換者―中国の外交政策革命に対応して」と題する論文で、中国は第一の革命である改革開放の結果、所得格差、失業の増大、環境悪化、社会保障ネットの荒廃、汚職などの問題を生んでしまった今、第二の革命に入りつつあると説く。

年間10万件を超える全国的な抗議運動を抑えるには、13億人の生活水準をさらに引き上げなければならない。そのためには資源を世界各地に求め、海軍力を止めどなく増大していかざるを得なくなる。インド洋、南シナ海、尖閣諸島など東シナ海への勢力増大の秘密はここに存するのだ、とエコノミー女史は指摘する。日本人にはすっきり理解できる。

軍事力軽視の楽観論
楽観論者は「ニューヨーク・タイムズ」紙の記者から国防総省、国務省の高官になったレズリー・ゲルブ氏で、「今や軍事力からGDP(国内総生産)の時代へ―経済力時代の米外交政策」のタイトルで一文を書いた。同氏は、世界各国が自国の経済的利害関係に重点を移しつつある現在、米国だけが軍事力の整備に専念していると批判する。

その前提として、中国が経済力の増強を国の基本的目標としており、軍事力を外国に展開する能力はまだ持っていないと論ずる。中国と事を構えたくないと主張してきた日本のいわゆる親中派にとっては歓迎すべき意見に違いない。

楽観論に立てば、中国の漁船が日本の領海内に入って常軌を逸した行動に出ても気にすることはない。であれば、日本は怠けに怠けてきた防衛政策を見直す必要もないことになろう。今後、オバマ政権は警戒論と楽観論のいずれに傾くのか。日本は米中両国の動向に絶えず目配りしなければならない「運命」にある。(了)

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第68回:米になお残る中国への甘い認識(田久保忠衛)