昨年12月、岸田文雄政権は国家安全保障戦略などを全面改定し、中国、ロシア、北朝鮮などの脅威に対抗すべく反撃能力の保持に踏み切るとともに、防衛費を5年間で43兆円とすることを閣議決定した。
国家安保戦略には「国民保護のための体制の強化」という項目が新設され、有事対応が始まったことはあまり知られていない。例えば3月17日、岸田政権と沖縄県は有事の際に台湾に近い先島諸島(宮古島市、石垣市、竹富町、与那国町、多良間村)の住民ら約12万人を九州各県に避難させることを想定した図上訓練を行った。この訓練を踏まえ10月18日、松野博一官房長官(当時)は、来年度中にも先島諸島12万人避難計画をまとめる方針を明らかにしている。
ところが、マスコミはこうした取り組みをあまり報じない一方で、政治家たちのスキャンダルを大きく報じる。
●報道に振り回される首相
厄介なことに、その報道に岸田首相自身が振り回されているように見える。12月13日、岸田首相は記者会見において、派閥パーティーの資金処理問題について「それぞれの政策集団、ひいては自民党の政治活動に厳しい目が向けられ、国民から疑念を持たれるような事態を招いていることは極めて遺憾」と沈痛な面持ちで語ったが、その一方でこうも語っている。
「事実を確認し、それに基づいて修正、適切な対応を行っていかなければならない。事実が確認されたら、説明するのが政治の責任だ」
要は、事実が確定していないにもかかわらず、あたかも大きな犯罪をしてしまったかのように話をし、安倍派を閣僚や党幹部から外したのだ。こうした岸田首相の振る舞いを見て、深刻な政治腐敗を隠してきたに違いないと、国民の大半は受け止めただろう。だが、本当に深刻な政治腐敗なのか、それとも慣例で還流分を記載してこなかったことなのか、明確な説明が必要だ。
●消費減税、憲法改正など懸案山積
と同時に、岸田首相をはじめとする自民党の政治家には、国民が厳しい目を向けているのは政治とカネの話だけではないということを理解してもらいたい。
日本経済は原材料費の高騰に伴う物価高を受けてインフレ基調になりつつも、物価上昇を上回る賃上げとはなっていない。この状態を打開するため可処分所得を増やす政策、つまり消費税減税、特に食料品の非課税が有効だと各界から提案されているが、消費税減税について議論をすることさえも拒否している。
伝統に基づく皇室制度改革、憲法改正もなかなか進まない。中国、ロシア、北朝鮮の脅威に対抗して我が国の防衛力の抜本強化はどの程度進んでいるのかについても広報に努めるべきだ。
岸田首相は、国民の信頼回復に向けて自らが先頭に立って取り組むとの強い覚悟を示したが、その信頼回復のテーマは、政治とカネだけではないはずだ。(了)