公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第1100回】北朝鮮核脅威をなぜ直視しないのか

西岡力 / 2023.12.25 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学特任教授 西岡力

 

 12月18日、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星18」の発射訓練を行った。火星18は固体燃料型で、4月と7月に試験発射が行われていた。私がこれまで繰り返し強調しているように、試験発射とされるのはまだ開発が終わっていない段階であり、開発が終わると実戦配備されて発射訓練が行われる。従って、ついに固体燃料型のICBMが実戦配備されたことを意味する。

 ●ICBMを実戦配備
 既に北朝鮮は米本土東海岸に届く火星15と火星17の発射訓練を終えており、その二つは実戦配備されている。だが、それは液体燃料型のミサイルだ。液体燃料は不安定なので発射直前に注入しなくてはならず、発射兆候をつかまれやすい。しかし、固体燃料はミサイルに入ったままであり、発射命令が下れば今回のように地下施設から移動式発射台に載って地上に出てきて、すぐ発射できる。
 北朝鮮は今回の発射訓練の動機について、「12月15日、米国と大韓民国軍部のごろつきがワシントンで第2回『核協議グループ』会議という核戦争謀議をこらして、またもや我々の『政権終焉』を言いふらし、共和国に対する『核報復打撃』を実戦化した大規模の連合訓練を強行」したことに対する「強力な行動的警告」であると説明した。尹錫悦韓国大統領の強い危機感の下、米韓は北朝鮮の核攻撃を想定した訓練を繰り返している。北朝鮮もそれに危機感を感じているのだ。
 3月に北朝鮮は「核反撃仮想総合戦術訓練」を行った。国営メディアは次のように訓練内容を報じた。「敵の主要対象への核打撃を模擬した発射訓練が行われた。ミサイルには、核弾頭を模擬した試験用弾頭が裝着された。平安北道鉄山郡で発射された戦術弾道ミサイルは、(日本海上の)目標上空800メートルで正確に空中爆発して、核弾頭に組み込まれる核爆発制御装置と起爆装置の動作の信頼性が再度検証された」

 ●日本も攻撃対象
 実は昨年9月25日から10月9日にも「戦術核運用部隊の軍事訓練」が行われている。その時も発射されたミサイルには模擬核弾頭が搭載され、目標は「南朝鮮作戦地帯内の各飛行場」(9月28日)、「敵の主要軍事指揮施設」(10月6日)、「敵の主要港湾」(10月9日)とされた。後ろの二つは攻撃場所を「南朝鮮」とせず「敵」としているから、わが国やグアムの米軍基地と自衛隊基地、港湾も含まれる。そうすると今年3月の核攻撃演習の目標「敵の主要対象」にもわが国が含まれると考えるべきだ。
 既に北朝鮮はわが国を射程に入れた戦術核ミサイルを実戦配備し(日本の防衛白書に記載済み)、戦術核攻撃訓練を繰り返している。それに対して、米国による拡大抑止すなわち核報復で国の安全を守るというのが非核3原則を掲げるわが国の立場だ。北朝鮮は固体燃料のICBMを実戦配備してしまった。米国は自国の大都市を犠牲にしてまで同盟国を守るのかという古典的疑問に韓国の大統領は必死で向き合っている。危機感がないわが国の政界、言論界、学界に、絶望的な危機感を覚える。(了)
 
 

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第493回 北朝鮮ミサイル発射、危機感を持つべきは日本

北朝鮮は先の弾道ミサイル(米まで届く火星18号)発射を「試射」ではなく「訓練」と表現。試射なら国防科学院が、訓練なら軍が実施。今回は軍の演習、固体燃料ICBMの実戦配備と言えます。日本を射程に入れた戦術核ミサイルも配備されているのに日本は危機感が乏しすぎます。