公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第1202回】ウクライナ戦争で北朝鮮の将軍が死亡

西岡力 / 2024.12.02 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学特任教授 西岡力

 

 ロシア西部のクルスク州で11月20日、同州の一部を占領しているウクライナ軍の攻撃により、将軍1人を含む北朝鮮軍約500人が死亡した。私の情報源が明らかにした。ウクライナ戦争に参戦した北朝鮮の将軍の死亡が確認されたのは初めてだ。攻撃には英国に提供された巡航ミサイル「ストームシャドー」が使われた。この攻撃による北朝鮮軍の死傷者は約2000人に上った。
 死亡したのは申グムチョル少将で、戦場に派遣された北朝鮮軍の将軍3人の1人。クルスク州に展開する北朝鮮軍の地下基地がミサイル攻撃に遭って重傷を負い、治療を受けている最中に死亡した。

 ●5万人の追加派兵を準備
 11月段階でロシアに派遣された北朝鮮軍は約1万2000人で、これまでに5000人以上が死傷したもようだ。多数の死傷者を出した北朝鮮軍は追加で5万人の派兵を準備している。
 派遣された北朝鮮軍には、金ヨンボク副総参謀長、李チャンホ副総参謀長兼偵察総局長、申グムチョル少将の将軍3人をはじめ、将校約500人が含まれている。「暴風軍団」と呼ばれる特殊部隊軍団である11軍団長出身の金ヨンボク副総参謀長が派遣軍の統括役を担っている。北朝鮮軍はロシア軍の軍服を着てロシア軍司令官の指揮下で参戦している。ロシア軍1中隊に北朝鮮軍1小隊が付く形で編成されている。
 20日の攻撃では、申少将が連れていた通訳か衛生兵の女性1人も負傷したようだ。北朝鮮の将軍は戦場に衛生兵と称する「喜び組」を同伴することがよくあるといわれる。将軍の遺体は平壌に運ばれるが、それ以外の死者は現地で火葬されて遺骨が遺族に届けられる。
 韓国の金龍顕国防相は10月24日、国会国防委員会で、「北朝鮮軍は派兵より傭兵という表現の方が適切だ。通常、派兵されれば、その国の軍の指揮体系を維持し、軍服、標識、国旗を付けて誇りをもって活動する。(しかし)北朝鮮はロシアの軍服で偽装し、ロシア軍の統制下で何らの作戦権限もなく、言われた通りに動いている。(だから北朝鮮軍は)『弾よけの傭兵』に過ぎない。(北朝鮮指導者)金正恩が自分の人民軍を違法な侵略戦争に売り渡した」と述べた。

 ●兵士の命と最新兵器の交換
 ロシア軍はトランプ次期米大統領の就任で停戦が早期に成立する可能性を視野に入れ、クルスク州の占領地奪還に力を入れている。その戦闘に北朝鮮軍が投入され、多数の死傷者を出している。ロシアと北朝鮮の関係は、共通の敵と戦う同盟というより、武器や兵士を提供する見返りにカネや軍事技術を受け取るというドライな関係だ。
 金正恩氏は派遣軍に多数の死傷者が出れば北朝鮮社会が動揺し、また戦場で脱走兵が続出する危険があることも承知している。しかし、停戦になってロシアとのドライな関係が終わるまでの数カ月間、とにかく傭兵として軍隊を出して、その報酬の大部分を自分のものにするとともに、どうしても欲しい原子力潜水艦、最新戦闘機などの提供をプーチン・ロシア大統領に迫るつもりだ。(了)