「韓国の保守派は落ちるところまで落ちなければならない。それで初めて再生できる」。尹錫悦韓国大統領の戒厳発動騒動を受けて、保守派のリーダー趙甲済氏はこう語った。
4月の総選挙で与党が大敗した結果、尹政権は巨大野党が支配する国会に足を引っ張られていた。尹大統領は、自分が国のために尽くしているのに野党に妨害され、その背後には北朝鮮がいて、このままでは韓国は亡びるとの妄想にとらわれ、軍を使って国会を無力化しようとした。「殿ご乱心」だった。
●戒厳宣布は独裁者の発想
戒厳布告文には「専攻医をはじめ、ストライキ中または医療現場を離脱したすべての医療人は48時間以内に本業に復帰して忠実に勤務せよ。違反すれば戒厳法によって処断する」という項目があった。尹大統領による医学部定員の大増員に反発した専攻医(専門医を目指す研修中の医師)が9割以上辞表を出して職場を離れた。それを尹政権はストライキとみなして警察を使って圧力をかけたが、専攻医らは戻ってこなかった。そこで軍を使って強制的に連れ戻そうとした。自分は正しいことをしているのだから、協力しない者は無理やり従わせるという独裁者の発想だ。
しかし、憲法が大統領に与えている戒厳宣布の権限は、国会の統制を受ける。国会が解除要求決議をすれば解除しなければならないと規定されている。過半数を野党が占める国会が、国会を無力化しようとする戒厳を支持するはずがない。尹大統領はそれさえも分かっていなかった。無能、衝動的、独善的で大統領の器でなかった。
●尹氏の早期退陣は必至
国会における7日の弾劾訴追は与党の大多数の退場で不成立になったが、与党が尹氏をかばうのは早期退陣が前提だ。紆余曲折はあっても、来年春か夏に大統領選挙が行われるだろう。今のまま行けば、第1野党「共に民主党」代表の李在明氏が当選する可能性が高い。
李氏は日本を敵国、敵性国家と断定するなど激しい反日発言を繰り返してきた。日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)に対し、「事実上の敵国である日本に軍事情報を無限に提供する売国的な軍事情報保護」を直ちに中断するよう要求し、「軍事的側面で日本は相変らず敵性国家であり、日本が軍事大国化する場合、最初の攻撃対象が韓半島になることは明らかだ」とSNSに書いた。2015年の日韓慰安婦合意に際しても、レイプ犯はわずかな金を払うことで免罪符を与えられたと激しく非難した。
李氏は自著で、「地政学的に大陸勢力(中国、ロシア)と海洋勢力(米国、日本)が衝突する半島に位置する我が国は、自主的で均衡のとれた外交を展開しなければならない」と述べ、バランス外交を提唱している。
李在明政権ができれば、文在寅政権時代のように韓米同盟が弱体化し、日韓関係が悪化する可能性が高い。米中対立の中で韓国が中国に接近するシナリオもあり得る。ただ、北朝鮮は韓国の情報が入ることを極度に嫌って「韓国は同族でない」「統一は放棄する」という大きな政策転換をしたので、南北関係は動かないだろう。(了)