韓国の尹錫悦大統領による衝撃的な戒厳令布告とその失敗は、日本にも大きな衝撃を与えた。韓国国会の弾劾決議は不成立となったが、尹大統領の統治は事実上終ろうとしている。早期に大統領選挙が実施されれば、野党「共に民主党」の李在明代表が勝利する可能性が高くなる。そうなると、韓国の外交・安全保障政策に深刻な変化がもたらされる。
●日韓関係は逆戻りへ
野党から出された弾劾決議案を見ると、それが読み取れる。決議案にはこう書かれている。
「(尹大統領は)北朝鮮や中国、ロシアを敵視し、日本中心の奇怪な外交政策を展開することで、北東アジアで孤立を招き、戦争の危機を引き起こし、国家安全保障と国民保護を放棄してきた」
尹大統領の対日政策を厳しく批判しており、日韓関係の改善は覆される可能性が高い。バイデン米政権が進めてきた日米韓の連携に関心がないトランプ政権が復活することも、日韓関係には逆風だ。
韓国野党は韓国を事実上の中国「封じ込め」戦略に引き込もうとする米国の試みにも批判的だ。日本はそうした政権が韓国に生まれる事態を想定しておくべきだ。
●半導体輸出で「中国寄り」転換も
安全保障面での影響も大きいが、ここでは経済安全保障を取り上げよう。
とりわけ韓国は、米中対立の主戦場である戦略産業の半導体分野でカギを握るプレーヤーだ。
米国はバイデン政権下で中国を念頭に、半導体分野での日米韓台4者連携(CHIP4)を進めてきた。しかし、韓国は半導体輸出の4割が中国向けで、サムスン電子、SKハイニックスはそれぞれ得意のメモリー半導体の約4割を中国工場で生産している。すでに中国市場への依存度は高く、もはや「足抜け」できない状況になっている。
そうした中で、バイデン政権は12月2日、中国への新たな半導体輸出規制を発表し、韓国企業に衝撃が走った。米国の安全保障に影響する中国の人工知能(AI)の能力向上を阻止する狙いで、それに不可欠な高性能のメモリー半導体HBMを規制対象にし、中国への供給を遮断するものだ。HBMは韓国のSKハイニックスとサムスン電子の2社で世界シェアの90%を占めている。米国の措置は米国企業が作るHBMだけでなく、第三国が作るHBMも米国の技術が使われていれば輸出規制の対象となり、これら韓国企業も米国政府の許可を受けなければならない。米国は韓国に対して対中半導体規制への同調を求めている。
今後、韓国の政権交代が起これば、韓国は半導体分野における米中間でのスタンスを大きく変化させて、「中国寄り」になることも予想される。日本は尹政権との関係改善の一環として、韓国を輸出管理の優遇対象国に復帰させた。しかし次期韓国政権の対応次第では、また事態が流動化することも懸念される。(了)