公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

中川真紀

【第1207回】中国が実戦に即した台湾有事軍事演習

中川真紀 / 2024.12.16 (月)


国基研研究員 中川真紀

 

 中国はこのほど、台湾周辺と西太平洋で大規模な軍事演習を実施したもようだ。今のところ中国の公式発表はないが、12月6日に中国の海警船が特異な航行を開始し、9~11日には中国が台湾対岸を含む7か所に飛行制限区域を設定したことから、軍事演習を準備も含め6~11日に行ったと見られる。台湾は中国軍と海警の活動活発化に警戒態勢を強化した。

 ●海軍・海警の作戦展開を訓練
 台湾国防部によれば、中国の東部、北部、南部3戦区の海軍及び海警が、台湾周辺と西太平洋に進出、台湾東方沖と、日本から南西へ台湾・フィリピン方面に伸びる第1列島線と日本から南へグアム方面に伸びる第2列島線の間に展開し、台湾の海上封鎖といわゆる「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)により台湾海峡の「内海化」をもくろむ軍事活動を行った。
 本年5月と10月に台湾周辺で中国軍が実施した「聯合利剣」演習は東部戦区が主催したが、今回は三つの戦区の海軍が参加していることから中央軍事委員会の主催である可能性があり、そうであればよりレベルの高い訓練と言えよう。
 また、中国から演習実施の発表がないことは、「聯合利剣」が示威目的の政治的な訓練であったのに対し、今回は台湾有事の際の海軍及び海警の当初の展開を情報統制しつつ実戦に即した形で訓練した可能性が高い。

 ●台湾有事と一体化する尖閣有事
 今回は海警が6日から活動を開始しているが、尖閣周辺を常に航行している海警編隊が日本領海内への月1回の定期侵入を6日に実施したことは演習と無関係ではないであろう。
 更に注視すべきは、領海侵入をした編隊4隻と交代する編隊が初めて4隻全て76ミリ砲を搭載し、同じ日に尖閣周辺の接続水域に入ったことだ。台湾有事の際、尖閣へ76ミリ砲搭載の海警編隊4隻を増派する想定で訓練した可能性がある。
 現在、海上保安庁の巡視船が搭載している砲は最大で40ミリ機関砲であり、尖閣周辺海域で並走する海警船に使うなら40ミリ砲でも有効だ。しかし、40ミリ砲の約3倍の射程を有する76ミリ砲を搭載した海警船が増派され、海保巡視船の射程外から攻撃してきた場合、海保が有効に対処できるのか疑問である。
 また、海保の対応能力を超えると判断された場合、海上自衛隊に海上警備行動を発令することも可能であるが、その場合、海保と海自の情報共有や迅速な発令準備等はできるのだろうか。更には海警船に海自艦艇が対応するとなれば、中国は、警察権行使の海警船に日本が軍事力を使用したと喧伝し、海軍による反撃の口実とするだろう。
 中国が台湾有事の際の尖閣への増派を訓練していると見られる現状を見据え、現場や中央での準備、世論戦や法律戦への備えを十分にしておかねばならない。(了)