公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

大野旭(楊海英)

【第1208回】戦後80年、中国との歴史戦に備えよ

大野旭(楊海英) / 2024.12.23 (月)


国基研企画委員・静岡大学教授 大野旭(楊海英)

 

 中国の「抗日戦争勝利80周年」に当たる2025年は、日本と中国の「歴史戦」の年となる可能性が高い。歴史学界やメディアをはじめ日本国民は、中国の歴史修正主義に真っ向から立ち向かう必要がある。

 ●映画「731」で反日宣伝強化へ
 歴史戦の兆しが見えたのは、映画「731」の宣伝活動が始まったことだ。この映画は、2025年7月31日から全世界で公開されることが発表され、すでにプロパガンダやイベントが各国で進行中である。映画「731」は、中国の脚本家・監督、趙林山氏が手掛けた作品で、出演俳優も中国語圏で広く知られている人物が多い。ストーリーは「中国侵略日本軍731部隊が行った細菌実験を背景に、平凡な人々の運命を通じてその犯罪行為を暴く」という内容だという。中国には「民間」や「個人」はなく、すべてが共産党政府主導で推進されているが、この映画もご多分に漏れない。
 731部隊は、正式には「関東軍防疫部」または「関東軍防疫給水部」と呼ばれ、軍事作戦の秘密性から「731部隊」と通称された。満洲国に駐屯し、そこで行われた研究の成果は各地の戦場で兵士の凍傷治療などに活用され、前線の兵士を救うのに役立ったとされる。戦後、その成果は米軍の手に渡り、一部はソ連軍にも引き渡されたという説がある。中国では、特に1989年の天安門事件後、731部隊の跡地が愛国主義教育の拠点として利用され、反日教育に活用されてきた。
 中国共産党は、戦後一貫して自国の歴史を修正し、抗日戦争を「偉大な中国共産党」の指導の下で戦ったものとして宣伝してきた。しかし、実際には、日本軍と対峙したのは国民政府の正規軍であり、共産党はその多くの期間を根拠地の延安で過ごしていたことが指摘されている。また、中国共産党は、延安や南モンゴルのオルドス高原などでケシを栽培してアヘンを製造していた事実については触れず、反日教育を強化してきた。反日は政権維持に欠かせない手段である。

 ●安倍元首相の談話を踏襲せよ
 では、日本はどう対応すべきか。安倍晋三元首相は2015年の戦後70年の談話で、日本人にいつまでも「謝罪を続ける宿命を背負わせてはならない」と述べた。この談話を踏まえ、日本の首相は新たな謝罪談話を出す必要はもはやない。もし「戦後80年談話」などを発表すれば、将来的に「戦後90年」といった形で、中国の歴史修正主義に巻き込まれるリスクがある。歴史戦を勝ち抜くためには、過去の教訓を活かしながら、毅然とした対応を取ることが求められる。(了)