公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

岩田清文

【第1229回】日本は自立性ある防衛力構築を目指せ

岩田清文 / 2025.03.03 (月)


国基研企画委員・元陸上幕僚長 岩田清文

 

 2月28日、ワシントンで開かれた米国とウクライナの首脳会談が、口論の末に決裂し、予定していた鉱物資源をめぐる協定への署名や共同記者会見が取りやめとなった。停戦へ向けた動きに大きな影響を及ぼすとともに、英国、フランス、ドイツ等欧州の首脳からはウクライナ擁護の発言が相次ぐなど、米欧の亀裂が更に深まることとなった。

 ●米の関心は「東西」よりも「南北」に
 会談中、ウクライナのゼレンスキー大統領は、戦後の安全が保証されないことへの懸念を何度も伝え、「殺人者」(プーチン・ロシア大統領)と妥協しないよう訴えたが、トランプ米大統領は、強大な支援を継続している米国に対し非礼だとゼレンスキー氏を非難し、ロシア、ウクライナ双方の立場に立ち戦争を停止させることの重要性を強調した。
 この背景には、米国にとって唯一の競争相手である中国と対峙するため、ロシアと手を結ぶ必要があるとの考えがあると推測できる。昨年あたりから米国内には、議会の超党派の議員を含め、近い将来に戦争が起きれば米国は中国に勝てないとの強い危機感が存在する。トランプ政権も、中露が連携してさらに米国の脅威とならないよう、ロシアを味方につける戦略を考えているのかもしれない。
 米国が中国との対峙に集中することは日本の安全保障上も有利である。しかし、ドイツの次期首相候補フリードリヒ・メルツ氏がトランプ氏に対し、「侵略者と被害者を混同してはならない」と忠言するほど、法による支配よりも自国の利益を優先するのがトランプ氏である。
 トランプ氏は28日の首脳会談で、「なぜアメリカは海を隔てているにもかかわらず、ここまでの貢献をしなければいけないのか」と疑問を呈した。米国はかつてのように、大西洋、太平洋を越えてはるか遠くの東西の国々に支援を与える国家ではもはやないと認識する必要があるだろう。「東西」よりも、北極海やグリーンランドを飛び越えて北からやってくる中国とロシアの核ミサイルの脅威、そして南から越境してくる不法入国者、さらにパナマ運河の安全保障といった「南北」問題のほうが今や重要なのである。

 ●日本に必要な国家戦略の練り直し
 この現実を直視し、日本は国家戦略を練り直す必要がある。まずは、米国に頼り切る防衛力から、さらに自立性ある防衛力の構築に努めるべきである。二つ目に、しかしながら、我が国の国力上、米国の力なくしては中国、ロシア、北朝鮮3カ国の攻撃力に立ち向かうことはできない。従って、トランプ氏をして日米同盟の強化が米国の国益にかなうと認識させる政策を押し進めるべきである。そして三つ目に、オーストラリア、フィリピン、インドネシア等、インド太平洋地域の同志国との連携をさらに強固にするための積極的な安全保障政策を具体化すべきである。(了)