トランプ米大統領は鉄鋼、アルミニウム製品への追加関税の実施に続いて、4月には貿易相手国の貿易障壁と同水準まで米国の関税を引き上げる「相互関税」を導入、さらに自動車に追加関税を課す方針を打ち出した。これに対して、先週、武藤容治経済産業相が訪米して、ラトニック商務長官らと会談した。
●対抗措置を用意せよ
まず鉄鋼、アルミ製品への追加関税について、武藤経産相は日本への「適用除外」を要請したが、除外とならなかった。今後のカギを握るのは、米国のユーザー業界の動きだ。日本の高品質の製品がないと生産に支障が出るユーザー業界から強い除外要望が来て、初めて米政府も調整に動く。
日本としては、自国の除外要請だけでなく、国際連携も必要だ。米中両大国によるパワーゲームに突入して、ミドルパワーの国々による国際連携が重要になる。日本は各国と共同歩調を取れるよう、世界貿易機関(WTO)への提訴や報復関税という対抗措置の用意もしておくべきだ。
●「自動車関税は合意違反」と迫れ
自動車への追加関税の阻止は日本にとって至上命題だ。ラトニック長官は日本を含む全ての国に自動車関税を課すと表明した。日本は「硬軟織り交ぜての交渉」で対応すべきだ。
まず「硬」は、第1次トランプ政権時代の2019年に締結した日米貿易協定をテコに使うべきだ。当時の安倍晋三首相は「日本車に追加関税を課さないことを首脳同士で確認した」と国会答弁をしている。日本側は「追加関税は合意違反」と米側に迫る気迫を示すべきだ。
「軟」で大事なのは、トランプ大統領の最大の関心事である来年の中間選挙を前に、米国の有権者にアピールできる「成果」を大統領に与えることだ。対米投資が米国の生産、雇用に貢献すると強調することは重要だ。ただし企業が個別に発表するのではなく、産業界全体として「大きな絵」に仕立てて、効果的にカードを切るべきだ。コメをはじめ農産物に対する日本の高関税についても、日本の農業の競争力を高める観点で見直す好機にしたい。
●必要な官邸主導の交渉体制
「エネルギー支配」を公約に掲げるトランプ大統領には、エネルギー協力も有効だ。日本が米国産の液化天然ガス(LNG)の購入に前向きの姿勢を示すのはよい。ただし、適正価格であることが条件だ。
焦点はアラスカの天然ガス開発だ。計画は1970年代からあるが、長距離パイプラインを永久凍土に敷設するために採算が合わず、米国石油企業も撤退した。もちろん日韓の民間企業は消極的だ。高値での調達になれば、電気料金に跳ね返って国民に負担が回ってくる。日本としては、前向きの姿勢を見せて協議の時間を稼ぐしたたかさも必要になるだろう。
この他、米国の造船業への協力も貢献カードとして有効だ。日本は広く「米国の防衛産業への協力」として打ち出すべきだろう。
こうなると霞が関の「縦割り」を越えた日本側の対応が必要になる。大事なのは官邸主導の体制だ。日米交渉も単なる関税の交渉では終わらない。日米間の広範な産業協力の戦略を早急に描くべきだ。(了)