トランプ政権の下で、米国の安全保障戦略が地殻変動的に変わろうとしている。約75年にわたり担ってきた北大西洋条約機構(NATO)の欧州連合軍最高司令官ポストを手放す検討を開始するなど、欧州から手を引こうとする動きが目立つ。この背景には、唯一の競争相手である中国に集中する目的があるとされている。確かに、ピート・ヘグセス国防長官は就任宣誓式で「インド太平洋における中国の武力行使を抑止するため同盟国と取り組む。責任を持って(ウクライナ)戦争を終わらせ、より大きな脅威に軍事的資源を優先して振り向ける」と述べている。
●米の軍事介入に疑問符
しかし、台湾の防衛に関しては、トランプ政権はその姿勢を明らかにしていない。唯一、国防次官に指名されたエルブリッジ・コルビー氏が3月5日の上院公聴会で、「今後数年間に中国が台湾を攻撃する可能性は現実的にある」との脅威認識を明らかにするとともに、有事の際に米国が軍事介入するかどうかを明確にしない「あいまい政策」の継続が妥当と述べている。
加えて、「台湾を失うことは米国の国益にとって深刻な打撃となる」としながらも、台湾のさらなる防衛努力が必要であり、その努力が「米国の(台湾防衛)介入を可能にするために不可欠だ」と強調している。特に、現状はGDP(域内総生産)比3%以下の台湾の防衛費に関し、「10%程度か、それ以上にすべきだ」と要求したことは重い。現在戦争状態にあるロシア、イスラエルでさえ、それぞれ5.9%、5.3%である。戦争中の国家の2倍近い防衛費を支出しなければ、米国として守る気はないとも取れる発言は、台湾有事に米軍が介入する信頼性を大きく低下させるものである。
●最悪の事態に備えよ
国家の危機管理においては、最悪の場合にも国防を全うできる戦略の構築が欠かせない。トランプ政権の自国優先姿勢を考慮した場合、状況によっては、台湾有事で米国の参戦がない可能性を考えておくべきことは今や常識だろう。
米国に見捨てられれば、台湾は中国に武力統一される可能性が高い。そうなれば中国は、台湾を根拠地とする圧倒的な戦力により、尖閣諸島はおろか、先島諸島、沖縄本島、そして西太平洋一帯を制圧する態勢を確立できる。これは、日本の国益を大きく損ね、日本が安全保障態勢の歴史的な大転換を迫られることを意味する。
そうした最悪の事態に備え、日本として政治、経済、技術、情報、軍事の各分野で今後何を為すべきかを定めた「台湾戦略」を構築する必要がある。3月18日、台湾国防部は中国軍による攻撃想定時期を初めて2027年と特定した文書を立法院(国会)に提出した。日本は台湾戦略の構築を急ぐべきだ。事が起こってからでは遅い。(了)