トランプ米大統領は3月26日、輸入自動車に25%の追加関税を4月3日から課すと発表した。日本からの輸入車も対象になる。日本の米国向け自動車輸出額は約6兆円で、自動車を基幹産業とする日本経済への影響は甚大だ。自動車産業は裾野が広く、関連産業を加えると雇用数は550万人に上る。
石破茂首相は国会で追加関税を避ける対応を問われて、「あらゆる選択肢を検討している」と述べた。しかし政府の動きを見ると、戦略的に取り組んでいるとはおよそ言い難い。武藤容治経済産業相はラトニック商務長官らに対して日本への適用除外を求めたが、除外とならなかった。その後は事務レベルで協議することになったものの、大臣で埒が明かなかったことを事務方に下ろして打開できるはずがない。むしろ関税制度の決定はトランプ大統領次第なのだから、石破首相自らが乗り出すのが当然だ。首相自身の本気度が疑われる。
●安倍氏の〝置き土産〟
今後の交渉において、第1次トランプ政権時代に締結した日米貿易協定をテコに強く迫るべきだと前稿(3月17日付)で指摘した。今回のトランプ大統領の発表は、当時の安倍晋三首相との間で日本車に追加関税を課さないと確認したことに明らかに反する。協定では日本が牛肉など農産物の関税引き下げで譲歩して合意している。「米側が約束違反をするなら、農産物の譲歩を撤回せざるを得ない」と強く迫るべきだろう。日本は声高に「報復関税」を言わなくても、この協定をテコに実質的に同等の対抗措置を講じられるのだ。
ただし事務レベルでの交渉ではこうした言い方ができても、トランプ大統領に対しては、反発を招いて逆効果にならないよう工夫がいる。むしろ「安倍元首相はこの約束をテコに国内的に難しい農産物での譲歩を苦労して業界、国会に受け入れさせることができた」とトランプ大統領に披歴してはどうだろうか。首脳同士の約束の話は首脳が持ち出すことに意味がある。問題は石破首相にそうした力量があるかどうかだ。
●対抗措置の制度整備を
なお、報復関税そのものについては、前稿において「報復関税という対抗措置を用意しておくべきだ」とも指摘した。日本の場合、報復関税の制度はないわけではないが、発動するためには世界貿易機関(WTO)で勝訴して認められなければならず、WTOが機能不全の中で、この制度は実質的に使えない。自国の判断で対抗措置を講じる制度が整備されていないのは主要7か国(G7)の中で日本だけだ。米中両大国による経済的威圧が横行する中で、他国同様に対抗措置を発動できるよう外為法を改正すべきだ。(了)