自動車関税25%などトランプ第2次政権(トランプ2.0)による高関税砲は乱射の様相を呈している。高関税は世界の自由貿易体制に便乗して安売り輸出攻勢をかける中国には確かに有効だが、日本など西側陣営に撃ち込んでしまうと、米経済自体にも災厄となって降りかかる恐れが十分だ。
●関税上げれば成長は鈍る
トランプ氏は関税障壁を高くすれば米国民が豊かになるという信念を持っているが、粗雑すぎる。早い話、1946年から2024年までの期間をとって、米国の平均輸入関税率と米国の実質GDP(国内総生産)のデータをパソコンの計算ソフトにかけると、統計学でいう相関係数はマイナス0.83となる。極めて高い確率で、関税率が下がるにつれて経済成長率は上昇する、あるいは関税率が上がれば成長率は下がる、という意味だ。米国のみならず、日本など多くの国が米関税率低下の恩恵を受けてきた。
中でも中国は最大の受益国である。1970年代末以来の改革開放路線や2001年の世界貿易機関(WTO)加盟をベースにして、外資を呼び込んで国内産業の技術水準を高め、輸出を急増させてきた。共産党独裁の強権体制は経済力膨張を土台に軍拡を推進する。立ちはだかったのが、2017年発足のトランプ第1次政権(トランプ1.0)で、中国に制裁関税を課した。2020年の米国の全輸入平均関税率は2.8%だが、こと中国に対しては20%を超えた。
「MAGA」(米国を再び偉大にする、の頭文字)を掲げるトランプ氏は、高関税によって米国製造業復権を図る。中国に関する追加関税率は決定分が20%で、ベネズエラ原油輸入関連でさらに25%を上積みする方向だ。トランプ1.0の場合、中国の輸出企業の多くは対米輸出価格への関税分の上乗せを見送り、関税を自己負担する羽目になった。対照的に米消費者は以前と変わらず安い中国製品に恵まれた。
●中国は日米分断画策
だが、日欧など同盟国、友好国の自動車メーカーなどは、追加関税分の多くを販売価格に転嫁する。米国の物価と金利の上昇圧力が高まるとの予想が金融市場に広がり、市場はすっかり不安定になってしまった。
日本では、対米輸出減で経済不安が高まると、親中派の国会議員、官僚や大手企業をますます中国寄りにしかねない。中国の習近平政権がこれにつけ込んで、日米の分断を仕組む。韓国も抱き込んで日中韓自由貿易協定締結を画策する。石破茂首相は、もとより中国に軟弱だ。2月の首相訪米では対米投資による米製造業の復権協力を約したが、その意志が萎えるかもしれない。(了)