3月25日、東京地裁は世界平和統一家庭連合(旧統一協会)に対して宗教法人としての解散命令を下した。家庭連合は即時抗告をするというので、上級裁判所の判断を待つことになる。だが、今回の決定で、わが国の信教の自由は大きく制限されたと思う。家庭連合の教義には全く同意できない。しかし、数十年間、この国で宗教法人として認められて宗教活動を行ってきた団体が、政府の突然の法人解散要件の変更とその遡及的適用で解散請求がなされ、地方裁判所が請求を受け入れる事態に、恐怖を感じざるを得ない。
●解釈変更の遡及適用
以前、わが国政府は、宗教法人法の解散命令の要件「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をした」について、刑法違反を対象とするとの解釈を取ってきた。ところが、安倍晋三元首相に対する憎むべきテロが起きた後、あたかもテロリストを利するかのように沸き起こったマスコミの家庭連合非難キャンペーンに押される形で、当時の岸田文雄首相は一晩で従来の解釈を覆し、法令違反には民法上の不法行為も含まれると言い始めた。その解釈が過去に遡って適用されて、文部科学省が家庭連合の解散請求を行った。
今回の地裁の決定では、民事訴訟で家庭連合が負けたケースだけでなく、示談で献金を返還したケースまで「法令違反」の事例として採用し、「著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為」とした。家庭連合によると、示談に応じたケースの中には、当事者が自発的な献金だったことを認めているものの、その後の家庭の事情や経済状態の変化によって返金を求めたケースもある。それが「法令違反」であるとなぜ言えるのか強い疑問を持つ。
●監禁による棄教強要
その上、家庭連合の弁護士によると、民事訴訟を起こした元信者のなんと88%が拉致監禁によって棄教を強要され、脱会した者だという。拉致監禁は「法令違反」だとされた民事訴訟の確定判決などを家庭連合は地裁に提出したが、国側は拉致監禁ではなく「監視下にあった」と主張したという。地裁はそのことに一切触れないで解散命令を出している。
確定判決で拉致監禁が認められた代表的な例に、鍵のかけられたマンションの一室に12年5カ月閉じ込められた後藤徹さんのケースがある。後藤さんを拉致監禁したとして賠償金の支払いを命じられた被告の中には、プロテスタントのキリスト教の牧師が含まれている。強制脱会させられた元信者の証言を宗教法人解散の証拠に使わないのが国際的な常識だ。
私はプロテスタントの信者であり、家庭連合の教理に同意できない。しかし、彼らの信教の自由は絶対に守られるべきだと強く主張する。(了)
【注】世界平和統一家庭連合の略称には「旧統一協会」と「旧統一教会」があるが、筆者の意向で本稿では前者を使う。