トランプ米大統領の「相互関税」政策が9日に発効する。相手国ごとに二国間貿易赤字の対輸入比率を基準に追加税率を設定した粗雑な手法だ。この機をとらえ、中国の習近平政権はあたかも自由貿易主義者であるかのごとく振る舞い、米国の世界貿易機関(WTO)ルール違反を非難する。石破茂政権に向かっては、韓国を含めた3カ国の自由貿易協定(FTA)交渉を誘うが、日米、米韓同盟分断の罠である。
●日米分断が習政権の狙い
米国が戦後主導してきた自由貿易システムに便乗したうえ、それを破壊してきたのは共産党独裁の中国である。トランプ氏が相互関税を含め打ち出してきた追加関税の実効税率は対中国が47.5%に上り、対日20%、全世界平均18.8%などに比べ突出している。不動産バブル不況が長期化し、鉄鋼、電気自動車(EV)など主要工業品の生産過剰が常態化している中国は、不当廉売輸出攻勢を加速させている。対抗する手段としての米国の対中高関税は当然の選択肢だ。
香港紙によれば、習国家主席は4月半ばにベトナム、マレーシア、カンボジアを歴訪するという。米国が定めた相互関税はカンボジア49%、ベトナム46%、マレーシア24%である。3カ国とも中国企業の対米迂回輸出拠点である。習政権は米国の高関税に動揺する東南アジアを懐柔して、中国の政治的影響力を一段と拡大、強化する。米国の同盟国日本や韓国とのFTAも同様の戦略の一環に違いない。
●交渉再開に条件を付けよ
日中韓は2012年11月にFTA締結交渉開始を宣言したものの、協議は停滞した。中国は国有企業保護策、外国企業への技術移転強制、部品・材料のサプライチェーン(供給網)独占など強権国家特有の政策を変えないからだ。ところが、トランプ氏の大統領復権の可能性が強くなった昨年5月、ソウルで開催された日中韓3カ国首脳会合は「FTA締結交渉の加速」で合意した。トランプ高関税砲がとどろく3月末にソウルで開かれた日中韓経済貿易相会合では「交渉加速のための議論継続」をうたった。中国との「戦略的互恵関係」に幻想を抱きがちな石破政権は習政権の誘いによろめく。
石破政権は今すぐ、毅然としFTA交渉再開条件を習政権に突きつけるべきだ。貿易障壁の撤廃や、習政権の常套手段である経済的威圧行為の撤回を条件としなければならない。習政権はレアアース(希土類)、レアメタル(希少金属)という半導体などハイテク製品やEV電池に欠かせない重要鉱物生産の独占的地位を背景に、これら鉱物の輸出を制限する。自由貿易ルール無視の極みであり、FTAどころではない。(了)