4月4日、韓国の憲法裁判所が尹錫悦大統領を罷免した。韓国は陰謀論に取り付かれて戒厳令を宣布した大統領を憲法の枠の中で退けることに何とか成功した。
●戒厳宣布の大統領罷免
憲法裁判所は全員一致で、戒厳宣布を重大な憲法違反、法律違反と認めた。韓国憲法は大統領に戒厳宣布の権限を付与しているが、「戦時、事変またはこれに準ずる国家非常事態」の場合、という要件を付けている。戒厳談話や憲法裁判所の審判で尹氏と弁護団は、野党が圧倒的多数を占める国会が「犯罪者集団の巣窟となり、立法独裁を通じて国家の司法・行政システムを麻痺させ、自由民主主義体制の転覆を企てている」として、宣布要件が満たされていたと主張した。また、現在の国会議員を選出した昨年4月の総選挙で国外勢力の介入による大規模な不正が存在したとか、戒厳宣布は野党の横暴を国民に知らせるための「警告性戒厳」「啓蒙令」だったと主張した。
しかし、憲法裁判所は、野党との葛藤や不正選挙への疑いは「政治的、制度的、司法的手段を通じて解決すべき問題であって、兵力を動員して解決できるものではない」と述べ、国民への警告は憲法の定める戒厳の目的に当たらないとした。
罷免後に憂慮された尹氏支持派の暴力行為は、警察の車の窓をハンマーで割った男が1人逮捕されただけだった。ただ、尹氏本人は反省や謝罪を一切せず、支持者への激励だけを行っている。
韓国の保守派は今回大きなダメージを負った。国会による弾劾訴追から約4カ月、弾劾に反対してきた与党「国民の力」の主流派や、陰謀論と戦わなかった東亜日報を除く保守メディア、全国で大規模集会を続けたキリスト教系保守勢力は「極右」あるいは「右翼全体主義」に近づいた。6月初めに実施される繰り上げ大統領選挙で、保守派が尹氏とその極右路線を否定できなければ、再建は困難だ。だが、そのような危機感を持つ保守政治家、メディア、知識人は今のところ少数だ。
●左派政権誕生なら日韓摩擦再燃か
一方、第1野党「共に民主党」の李在明代表は「中道保守」を標榜し、日米の駐韓大使に相次いで面会して3国の連携強化を唱えている。韓国の複数のベテラン政治記者に聞いたところ、李氏は北朝鮮に従う主体思想派ではなく、権力欲の強い機会主義者だという。また、同じ左派系の文在寅元大統領を強く恨んでいるので、李在明政権ができたら文氏逮捕もあり得るという。韓国政治は奥が深い。
ただし、李氏は反日・反韓史観に完全に毒されているから、大統領に当選すれば歴史認識問題で日韓摩擦はかなり起きるはずだ。だからこそ、日本が韓国に安易に謝罪することは絶対禁物だ。(了)