公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

中川真紀

【第1246回】着実に進む中国軍の台湾侵攻準備

中川真紀 / 2025.04.28 (月)


国基研研究員 中川真紀

 

 台湾侵攻を担当する中国軍東部戦区が4月1~2日、海上封鎖及び模擬目標への実弾射撃を主体とする統合演習を実施したと発表した。模擬目標への実射を主体とする演習は「海峡雷霆-2025A」と命名された。4月という訓練年度開始早々の統合演習であり、中国が習近平国家主席の指示通り2027年に台湾へ侵攻できる準備を着実に進めていることがうかがえる。今回の演習で主に注目すべき点は以下の四つである。

 ●演習の四つの注目点
 第一は、空母編隊の海上封鎖任務への参加である。
 1~2日、空母「山東」を含む5隻が台湾東方沖で活動した。昨年10月の海上封鎖統合演習「聯合利剣B」と比較すると、空母の重点検証項目として「立体封鎖」が追加された。空母が海上、空中に及ぶ立体的な海上封鎖任務を与えられ、他部隊と連携して封鎖を実施する具体的な訓練が行われた可能性がある。
 第二は、多連装ロケット砲によるエネルギーインフラへの模擬攻撃だ。
 2日、陸軍の長距離多連装ロケット砲部隊が台湾・永安の液化天然ガス(LNG)陸揚げ基地を模した目標に実弾射撃を実施した。台湾では発電の4割以上をLNGに依存し、その貯蔵量は2週間分以下とされる。海上封鎖とエネルギーインフラ攻撃を行えば市民生活の混乱を招くと台湾住民を威嚇したのであろう。
 第三は、空対艦超音速弾道ミサイルの使用だ。
 1日、離陸するH-6K爆撃機に超音速対艦弾道ミサイルYJ-21が装着されているのが確認された。爆撃機による米艦艇群の接近阻止を訓練したと考えられる。YJ-21は昨年5月にH-6Kからの発射映像が初公開されたばかりで、統合演習での爆撃機への装着は初確認である。新装備の戦力化が進展している証左であろう。
 第四は、海上民兵との連携の深化だ。
 台湾の沿岸警備隊に当たる海巡署の発表によると、台湾東岸の花蓮港沖250キロの海域で1~2日、中国の海上民兵が乗り込んだと思われる船3隻と海軍が一緒に訓練をした。この海域は沖縄県の石垣島南方約90キロの位置である。海軍艦艇と海警船の間に民兵船を配置し、海上封鎖の監視等に活用する訓練、または日本周辺に海上民兵を展開し、戦時でも平時でもないグレーゾーンの行動をさせる訓練をした可能性が考えられる。

 ●警戒すべき演習から戦争への転換
 今後も中国軍の台湾周辺での演習やグレーゾーン行動がより常態化すると思われ、台湾侵攻の兆候が不明確になる恐れがある。日本としては「演習から戦争への転換」に対する迅速な判断と対応が必要となる。また、今回の演習で見られたように中国軍、海警、海上民兵の連携が深化しており、海上民兵と海警の連携による尖閣諸島等における行動への的確な対応も必要であろう。更に中国軍の新装備の戦力化進展により、対インフラ精密打撃能力や米軍を台湾に近寄せない接近阻止能力が向上していることを踏まえ、日本国内の重要インフラの防空能力及び反撃能力の整備にも早急に取り組まねばならない。(了)