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本田悦朗

【第1247回】米はドル安誘導を求めず―日米財務相会談

本田悦朗 / 2025.04.28 (月)


国基研企画委員・京都大学大学院客員教授 本田悦朗

 

 加藤勝信財務相は24日、ワシントンでベッセント米財務長官と会談し、為替政策を巡って協議した。日本側の発表によると、①為替レートは市場で決まる②過度な変動や無秩序な動きは経済と金融の安定に悪影響がある―との認識を双方で再確認した。また、ベッセント氏はトランプ大統領の意向に沿って為替水準への懸念を表明したが、「為替水準の目標」設定等の具体的な要求はなかった。①と②は以前から主要7カ国(G7)の会議で言及されてきたところであり、今回の財務相会談の結果は日本にとって想定内のものであったようである。

 ●米貿易赤字の主因は経済構造にある
 トランプ大統領は従来、基軸通貨ドルは国際的な信認が確保された「強いドル」でなければならないとしつつ、米国の貿易赤字を招く「ドル高」は是正される必要があると強調している。しかし、1ドル=160円を超える円安をつけた2024年6月に比べると、このところ円高が徐々に進み、最近は1ドル=140円台前半の水準で推移している。その中で、さらに円高ドル安を求めた場合、最大の債権国日本の投資家からの米国債に対する買いが減速し、市場が不安定になる恐れがある。それが、今回の会談で日本に一層の円高を求めなかった理由の一つではないだろうか。
 そもそもトランプ大統領がドル高の是正を求めているのは、米国の貿易赤字の解消が狙いである。しかし、日本の貿易収支自体が赤字であるし、対米に限っても巨額の貿易黒字はもはや過去の話となっている。
 また、一国の貿易収支は、その国の国内の貯蓄と投資の差額に大きく影響され、為替レートだけで決まるわけではない。例えば、投資が国内の貯蓄を上回ると、貯蓄不足を補うため海外から資金が流入し、その結果、輸入が増加して貿易赤字につながりやすい。米国の貿易収支赤字は、国内の貯蓄を凌駕する旺盛な投資需要によって引き起こされている面が大きい。
 さらに、民間企業における赤字と全く異なり、貿易収支の赤字は単に輸入が輸出より多いことを意味するだけで、赤字自体は何ら問題ではない。とりわけ、米国が貿易赤字によって供給するドルは、国際基軸通貨として機能しており、国際的に安定的な流動性を維持するために重要である。米国の貿易収支均衡は高関税やドル安では実現しないのである。

 ●日米間で重要な正論の共有
 ベッセント長官はもともとプロの投資家なので、このような経済のマクロ的側面をよく理解している。しかし、トランプ大統領が米国の貿易赤字について誤解し続ける限り、為替の問題がいつ蒸し返されるとも限らない。「相互関税」や「ドル安誘導」によって米国の貿易収支を均衡させることが重要なのではない。そもそも、貿易収支を均衡させる必要がないのだ。
 我が国は、ディール(取引)だからといって、すぐに譲歩案に飛びつく必要はない。ベッセント財務長官のような理解ある人と、まずは正論を共有することが大切だ。(了)