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中川真紀

【第1249回】中国軍第2の海外基地始動―カンボジア

中川真紀 / 2025.05.12 (月)


国基研研究員 中川真紀

 

 4月5日、カンボジア南西部の同国海軍リアム基地で、中国の支援による基地拡張工事の完了式典及び基地内に設置された中国カンボジア・リアム港共同兵站訓練センターの発足式が挙行された。同センターには中国人民解放軍が常駐することになっており、中国はアフリカのジブチ基地(2017年開設)に続く第2の海外軍事基地を実質的に保有した。

 ●軍人が常駐、軍艦も停泊継続
 センターの発足式にはカンボジアのフン・マネット首相や中国軍代表団が参加した。中国国防省は「センターは中国、カンボジア両軍による地域の対テロ作戦、災害対応、人道支援、共同訓練等に使用され、両国が必要な人員を駐在させ、センターの運営に共同で当たる」と述べ、中国軍が常駐することを明らかにした。
 衛星画像からも、2023年12月以降、リアム基地に新設された桟橋に中国海軍のジャンタオ級コルベット艦2隻が停泊し続けているのが確認されたほか、基地の北側地区には中国軍基地に類似した施設が建設されており、センター発足式も同地区で実施された。このことから、中国軍が常駐するのは新設桟橋を含む北側地区となる可能性が大きい。
 フン・マネット首相は式典のスピーチで、「全友好国の艦艇の寄港を歓迎する」と述べており、工事完了後初めての外国艦艇として海上自衛隊の掃海母艦「ぶんご」と掃海艦「えたじま」が4月19日にリアムに寄港した。28日にはベトナム海軍艦艇1隻が寄港した。
 しかし、19日の日本のテレビ報道及び28日の衛星画像で確認すると、日本及びベトナムの艦艇は中国艦艇が停泊している桟橋とは別の南側地区の埠頭に接岸した。同首相は式典で「憲法で外国軍の駐留は認められていないし、憲法を改正するつもりもない」と述べたが、北側地区は中国軍専用として運用されていく可能性があり、リアムは中国の2番目の海外基地と言ってよいであろう。

 ●東南アへの影響力拡大狙いか
 中国は既に南シナ海において港湾、滑走路、防空施設等を持つ大規模な人工島を建設し、実効支配しており、南シナ海から離れたタイランド湾(シャム湾)に面するリアム基地を南シナ海での活動拠点として利用する可能性は低い。
 しかし、中国軍が常駐することによる東南アジア諸国連合(ASEAN)各国への影響力拡大、特に中国と国境問題を抱えるベトナムや、米国などとの合同軍事演習を主催するタイへの威嚇を企図している可能性はある。また、タイランド湾からマラッカ海峡に至る海域でのプレゼンス強化及び情報収集の拠点として利用する計画を巡らしているかもしれない。さらに長期的には、中国とラオス、タイ、カンボジアを結ぶ高速鉄道等のインフラ整備により、中国内陸部からタイランド湾までを繋ぐ陸路の出口にしたいと考えていることもあり得る。今後の運用状況を注視していく必要がある。(了)