公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

岩田清文

【第1256回】日本は尖閣有効支配の本気度を示せ

岩田清文 / 2025.06.02 (月)


国基研企画委員・元陸上幕僚長 岩田清文

 

 5月3日12時21分ごろから約15分間、尖閣諸島周辺の日本領海内の中国海警船から発艦したヘリコプターが領空侵犯をした。航空自衛隊のF15戦闘機が那覇基地から緊急発進したが、約400キロ離れた尖閣諸島に到達する前に、中国ヘリは海警船に戻った。
 中国による尖閣諸島領空への侵犯は3回目である。中国の態様がこれまでと異なるのは、日本の民間機の尖閣諸島領空進入とほぼ同時に中国機が領空を侵犯したことである。中国が領有を主張する尖閣諸島の領空を日本の航空機が「侵犯」したとの理由により、中国として正当な法執行の既成事実化を図ろうとしたことは、行動のステージを一段上げたと見るべきだ。

 ●自己規制する日本政府
 岩屋毅外相が本件に関し初めてコメントしたのは、5月13日の記者会見である。政府が民間機の運航者に飛行の自制を求めていたことについて質問されたのに対し、外相は、民間機の航行の安全を図るという目的で規制したと答えている。中国を過度に刺激しないため、尖閣上空の安全航行を保証できないとして日本国民への規制を強める政府の姿勢からは、尖閣諸島を真に有効支配できているのか疑問を抱かざるを得ない。
 一方、自民党の危機認識は妥当である。5月9日、自民党内の会議において、中曽根弘文外交調査会長は「そのうちドローン(無人機)やヘリが尖閣諸島に着陸しないとは限らない」との懸念を示した。木原稔安全保障調査会長も「(ヘリと戦闘機の)高度も速度も飛行コストも異なる中、領空侵犯への対応をどのように考えていくべきか」と問題提起している。

 ●本格的対応を速やかに具体化せよ
 今回のように、日本領海内の海警船から発艦するヘリには空自の戦闘機では有効な対応が難しい。このため、現場海域で常に海警船と対峙している海上保安庁に対領空侵犯措置の任務を付与し、必要な法改正及びヘリ・無人機運用も含めた能力を保有させるべきである。
 また、国基研企画委員の織田邦男元空将が提唱するように、日米地位協定に基づき米軍射爆撃訓練場として提供されている尖閣諸島の久場島及び大正島を日米共同訓練施設に改め、ここで空自戦闘機の射爆撃訓練を実施し、有効支配の事実化を図るべきである。
 さらに、尖閣諸島から約190キロの下地島空港に空自基地を開設し、空自戦闘機の対応時間を短縮させるべきである。
 加えて、尖閣諸島が中国の領土であるとの中国の執拗な認知戦に対し、日本として主導的かつ有効な認知戦を実行できる体制を政府内に組織すべきである。
 ここ数年における中国海警総隊の増強には著しいものがある。法執行権限の強化、装備の海軍化、訓練の本格化及び母基地の拡張等、いずれも習近平国家主席の明確な指示の下、いずれは尖閣上陸・占拠を狙っていると言っても過言ではない。政府が今、本気度を示さねば、本当に禍根を残すことになる。(了)