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織田邦男

【第1264回】テロ支援国の核武装を許してはならない

織田邦男 / 2025.06.23 (月)


国基研企画委員・麗澤大学特別教授・元空将 織田邦男

 

 6月22日未明(イラン時間)、米軍は3か所のイラン核施設を攻撃した。現時点で損傷の程度は不明だが、トランプ米大統領は国民向け演説で、これら施設を「完全に破壊した」と主張した。
 フォルドウ、ナタンツ、イスファハンの3施設に対する米軍の攻撃は、13日から続くイスラエルによるイラン核施設攻撃作戦の延長である。イスラエルによるイラン本土への攻撃は昨年4月から始まり、10月の空爆ではイラン防空網の大半を破壊した。13日以降、イラン全土に散在する核関連施設の多くがイスラエル軍の空爆で損傷を受けた。中核施設であるナタンツのウラン濃縮施設は、攻撃によって放射線と化学物質に汚染されたとの情報もあった。もう一つの中核であるフォルドウの濃縮施設は地下約80メートルにあり、この深さの地下施設を破壊するには、米軍のみが保有する地中貫通爆弾GBU57(バンカーバスター)が必要であるため、イスラエルは米軍による攻撃を強く要請していた。
 フォルドウの地下施設攻撃は作戦のいわば「天王山」である。要請を受けたトランプ大統領は米軍によるフォルドウ攻撃計画を承認する一方で、攻撃を実行するかどうかは「2週間以内に決断する」と保留していた。

 ●イスラエルの目的は体制転換
 イスラエルの作戦目的は、イランの核開発阻止だけでなく、体制転換を含む。それは、イラン軍参謀総長、革命防衛隊司令官など政権中枢の人物を殺害していることからも分かる。他方、米国はイランとの核協議を実施中であり、イスラエルによる攻撃に反対だった。イランの核開発阻止が米国の目的であり、体制転換の意図はない。トランプ大統領は演説で、「われわれの目的は核濃縮能力の破壊と、世界一のテロ支援国家がもたらす核の脅威の阻止にある」と強調した。
 イスラエルにとっては、イランの体制転換の千載一遇の好機である。ウクライナ戦争で手一杯のロシアからイランへの軍事支援は不可能だ。イランが支えてきたシリアのアサド政権は倒れ、中東地域のイラン子飼いのテロ組織ハマス、ヒズボラ、フーシもイスラエルの攻撃で弱体化した。そしてイスラエルはイランの制空権を確保した。イランの脅威を根本的に除去する好機と考えるのは当然だ。

 ●北朝鮮非核化失敗の轍を踏むな
 今回の米軍による攻撃は東アジアにも影響を及ぼす可能性がある。今後、米国とイランとの本格的戦争に発展すれば、東アジアの米軍戦力は手薄になり、「力の空白」が生じる。今が好機と習近平中国国家主席が誤認する可能性もある。イランがペルシャ湾に機雷を敷設するテロ行為に及べば、原油輸入の90%以上を中東に依存する日本への影響は甚大である。日本は最悪の事態を想定して準備しておく必要がある。
 テロ支援国家イランの核兵器保有は、イスラエルのみならず国際社会の許すところではない。今回、一歩踏み出した米国は、北朝鮮非核化で失敗した轍を踏まぬようイラン核開発阻止に万全を期すと共に、紛争拡大防止に向けた慎重な外交が望まれる。(了)