公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第1265回】対イラン攻撃は「テロとの戦い」

西岡力 / 2025.06.23 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学特任教授 西岡力

 

 イスラエルと米国による対イラン攻撃は、米国のブッシュ(子)政権が始めた「テロとの戦い」の延長線上で見るべきだ。2001年9月のイスラム過激派テロ組織アルカイダによる米国への同時多発テロに対して、ブッシュ政権は犯罪を扱う警察ではなく、敵の攻撃に応戦する軍隊を動員した。警察が対応する場合はテロリストにも一定の人権を認めて様々な配慮がなされるが、軍隊が対応する場合は無関係の者をなるべく巻き込まないという配慮はするものの、テロリストに対しては容赦ない攻撃が加えられる。

 ●テロ組織の核入手を懸念
 ブッシュ政権は、テロ組織が核兵器や毒ガスなど大量破壊兵器を入手すれば、それを使う自爆テロを米本土で行うだろうという危機感を募らせた。2002年1月、ブッシュ大統領はテロリストに正義の裁きを下すことだけでなく、テロ支援国が大量破壊兵器を使って米国と同盟国を脅かしたり、それをテロリストに渡したりさせないことをテロとの戦いの目標に掲げた。テロ支援国の大量破壊兵器保有を戦争で止めると宣言したのだ。
 その時、ブッシュ大統領が「悪の枢軸」として指名したテロ支援国が北朝鮮、イラン、イラクの3カ国だった。イラクは実際に戦争で毒ガスを使った前歴があった。北朝鮮とイランはパキスタンからウラン濃縮技術を密かに入手して、核開発を続けていた。当時、米国務省の軍縮担当次官だったジョン・ボルトン氏は、パキスタンの核開発の父と呼ばれるアブドル・カディル・カーン博士に会って、自分が北朝鮮とイランにウラン濃縮技術を教えたという証言を得た。私はボルトン氏から直接そのことを聞いている。今回、米軍が最新の地中貫通爆弾GBU57(バンカーバスター)を使って攻撃したのは地下にあるウラン濃縮施設だが、その技術を提供したのがパキスタンだった。
 イスラエルは2023年10月、パレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスによるテロ攻撃を受けた。その攻撃にはイランの意思が働いていた。イランはイスラエルを「違法な(パレスチナ)占領国家」と位置付け、過去には高官が「イスラエルを地図から消す」と発言したことがある。イスラエルは今、対テロ戦争を戦っており、その目標はハマスなどテロ組織をたたくことだけでなく、テロ支援国であるイランが核兵器を持ち、それを受け取ったテロリストが核によるテロを起こすのを許さないことなのだ。

 ●戦わない日本
 今回の米国によるイラン核施設爆撃は、テロ支援国の大量破壊兵器保有を戦争に訴えてでも止めるというイスラエルの必死の自己防衛姿勢に、同時多発テロを受けた米国が同調したと私には見える。イスラエルはナチスによる民族大虐殺という悲劇を経験して、再度そのようなことをさせないという強い決意を持っている。
 もう一つのテロ支援国、北朝鮮はすでにわが国を射程に入れた核ミサイルを実戦配備してしまった。その上、北朝鮮は日本人拉致というテロを今も続けている。過去に核攻撃を受けた経験を持つわが国はイスラエルのように戦う決意がない。(了)