公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

太田文雄

【第1323回】中国のフェイクニュースに騙されるな

太田文雄 / 2025.12.15 (月)


国基研企画委員・元防衛庁情報本部長 太田文雄

 

 12月6日、中国空母「遼寧」の艦載機J15が航空自衛隊のF15に対し、火器管制モードによるレーダー照射を2回行った。火器管制レーダーを相手に向けることは、海上における偶発的な軍事衝突の回避を目的に中国海軍も採択に加わった2014年の海上衝突回避規範(CUES)の明確な違反行為である。今回の事案を受けて、中国が今後フェイクニュース(偽情報)を発信することも過去の行動から予測されるので、注意を喚起したい。

 ●危険行為でっち上げの実例
 中国海軍による火器管制レーダー照射には先例がある。2013年1月、中国海軍のフリゲート艦「連雲港」が海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」に対し、またフリゲート艦「温州」が海自の護衛艦「おおなみ」搭載の哨戒ヘリコプターに向けて、同レーダーを照射した。当時の小野寺五典防衛相はこれを「ゆうだち」の事案の6日後に公表し、安倍晋三首相は「国際社会のルール違反だ」と批判した。
 それから3年後の2016年12月10日、中国国防省の報道官は「航空自衛隊のF15戦闘機が、中国空軍機に対してデコイ・フレアを発射した。これは中国軍用機と搭乗員に対し極めて危険かつプロフェッショナリズムにもとる行動だ」と空自F15の写真を掲げて非難した。しかし、写真のF15は当日、飛行任務に就いていなかった事を当時の稲田朋美防衛相から直接聞いた。この手の、ありもしないフェイクニュースで今回のレーダー照射事案に反撃して日本を貶めようとすることが今後起こり得ると留意すべきであろう。

 ●沖縄帰属でも偽情報流布
 いわゆる高市早苗首相の台湾有事に関する国会発言以降、中国は「沖縄県を(中国の冊封体制時代の呼称である)琉球と呼ぶべきだ」とか「沖縄の主権・帰属は未解決」との報道を共産党機関紙・人民日報やその傘下の環球時報で流しているが、中国が沖縄に領土的野心を示すのは今に始まったことではない。
 筆者の知る限り、始まりは2012年9月17日の環球時報である。その内容は「2006年3月4日に琉球で住民投票が行われた。その結果、75%が日本からの独立を求め、25%が日本への帰属を希望するものの自治を求めた」としている。しかし2006年3月4日に沖縄で住民投票が実施された事実はなく、完全なフェイクニュースである。
 さて12月4日にトランプ政権は国家安全保障戦略を公表したが、バイデン政権が中国を「唯一の競争相手」と位置付け、「脅威」として明確に認識・対応したのに対し、今回の国家安保戦略では、中国脅威論をトーンダウンさせた。
 しかし中国は、既に香港を取り込み、これから台湾を併呑しようとし、沖縄に対する領土的野心も隠さない。沖縄が中国の手に落ちれば、米軍は海外で唯一の海兵遠征軍や極東最大の嘉手納空軍基地を失う。トランプ大統領は来年4月の訪中に際し、経済的ディール(取引)に没頭するのではなく、安全保障上の問題を認識すべきだ。(了)