公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

織田邦男

【第1322回】核抑止戦略を真剣に考える時だ

織田邦男 / 2025.12.15 (月)


国基研企画委員・麗澤大学特別教授・元空将 織田邦男

 

 12月4日に公表された米国の「国家安全保障戦略」は、自国利益を最優先する「米国第一主義」を前面に打ち出した。自由主義社会の盟主たる面影は失せ、トランプ大統領の口癖である「同盟国が米国の安全保障にただ乗りしてきた」との批判が色濃く反映されている。
 日本の安全保障上、最も脅威である中国に関しても「米国と中国の経済関係をリバランスさせ、米国の経済的自立を回復する」と経済優先であり、台湾有事に対しても「理想的には軍事力の優位を維持し紛争を抑止することが優先事項だ」と腰が引けている。何より日本にとっての懸念材料は、北朝鮮の核に対する記述がすっぽり抜け落ちていることだ。

 ●米安保戦略から欠落した北朝鮮核
 北朝鮮は2023年、憲法に核戦力強化を明示し、核、ミサイルの増強を図っている。2024年12月にはトランプ氏の大統領復帰を念頭に、金正恩労働党総書記が米国を「反共を変わらない国是としている」と非難し、「最強硬対米対応戦略」を示した。
 他方、トランプ大統領は2期目の就任式後、金正恩氏について「彼とは関係がよかった。核保有国だが、うまくやれた。私の復帰を喜ぶだろう」と述べた。米政府は北朝鮮を公式には核保有国と認めていない。だが、北朝鮮の核保有を容認するかのようなトランプ氏のこの発言や、今回の国家安全保障戦略から、米国が同盟国に差し掛ける「核の傘」への信頼性は著しく低下した。
 北朝鮮は昨年、ワシントンに届く「火星19」の発射実験を成功させた。今年の1月には新型極超音速の中距離弾道ミサイルの発射実験に成功した。このミサイルは日本全土をカバーするが、自衛隊にはこれを迎撃する能力はない。
 第1期トランプ政権は、北朝鮮の核兵器の「完全で検証可能かつ不可逆的廃棄」(Complete, Verifiable, and Irreversible Denuclearization=CVID)を主張し、朝鮮半島の非核化に熱心だった。その時でもトランプ氏は、米国に届かない中距離弾道ミサイルの開発については「シンゾウ(安倍晋三首相=当時)の問題だ」(2019年)と切り捨てていた。今回の安保戦略で北朝鮮への言及が全くなかったことで、綻びかけていた「核の傘」は、決定的に「破れ傘」になる懸念がある。

 ●核攻撃から日本をどう守るのか
 昨年、核廃絶を訴えてきた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)がノーベル平和賞を受賞した。喜ばしいことだが、核が廃絶されるまでの間、どう国民を守るかは政府の重い責任である。
 我が国も国家安全保障戦略を前倒しして見直すことになった。現安保戦略の最大の欠点は核抑止戦略が欠落していることだ。もう甘えは許されない。核からどう日本を守るか、国民一人一人が核抑止戦略を考える時である。(了)