公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

岩田清文

【第1325回】核抑止の議論を封じるな

岩田清文 / 2025.12.22 (月)


国基研企画委員・元陸上幕僚長 岩田清文

 

 報道によれば、首相官邸幹部が18日報道陣に対し、個人的見解として「日本は核兵器を保有すべきだ」との考えを示した。ただし、政権内で実際に議論を進めているわけではなく、核不拡散条約(NPT)体制との兼ね合いなどから実現は困難だとも指摘している。

 ●安全保障環境の深刻な悪化
 官邸幹部は、この発言の前提認識として、中国の核戦力増強、ロシアによる核の威嚇、北朝鮮の核開発など、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているとの見方を示している。確かに、中国の核弾頭はこの4年間で360発増加し、総数は約600発に達した。北朝鮮もすでに約50発を保有しているとみられる。米国防総省の「中華人民共和国の軍事・安全保障動向に関する年次報告書(2024年)」は「中国は台湾での軍事作戦で敗北し、中国共産党体制の存続が脅かされる場合、核兵器の先制使用を恐らく検討するだろう」と警告している。加えて2022年、ロシアがウクライナ侵攻の過程で戦術核使用を真剣に検討した事実は、核使用の敷居が現実に低下しつつあることを示している。
 さらに深刻なのは、米国の抑止力そのものが揺らいでいることだ。12月4日に公表された米国の国家安全保障戦略は、中国に対する軍事的優位を保つ重要性を強調しながらも、相対的な国力の低下により、米国単独ではそれが困難な現実を認めている。中国、ロシア、北朝鮮の核保有3カ国を同時に抑止することの困難性が米国内で指摘されている現状を踏まえれば、従来のように米国の「核の傘」に全面的に依存する日米同盟の在り方が、重大な転換点を迎えつつあることは明白である。

 ●核攻撃から国を守るのは政府の責務
 こうした状況下、政府には核の脅威から日本を確実に守る抑止力——すなわち「二度と日本に核を撃たせない」態勢——の強化が求められる。そのためにいかなる政策を講じるべきかを真剣に検討することは政府の責務である。核兵器の保有を直ちに現実的な選択肢とするか否かは別として、抑止力の空洞化を放置することは許されない。官邸幹部の発言は、そうした切迫した問題提起として受け止めるべきだろう。
 我が国は民主主義国家である。国家の存亡に関わる問題を、感情やイデオロギーで封じてはならない。核を巡る議論をタブー視する時代は終わった。冷静な事実認識と現実的な安全保障観に基づき、国民的議論を深めることこそが、真の平和と安全を実現する道である。(了)