公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第1336回】歴史戦を韓国内で続ける李大統領

西岡力 / 2026.01.19 (月)


国基研企画委員兼研究員・麗澤大学特任教授 西岡力

 

 韓国の李在明大統領が1月4~7日に中国、13~14日に日本をそれぞれ訪問した。二つの歴訪で李氏は、歴史認識を外交に持ち込む反日外交を封印した。それが李氏の掲げる国益重視の実用外交だ。支持層には不満があるので、李氏は国内で韓国現代史に関する歴史戦を展開し「ガス抜き」をしている。それに対して保守派が反発し、反日運動の虚偽を暴いたベストセラー『反日種族主義』の執筆陣が新しい歴史観を確立する国民運動を開始した。

 ●対日歴史戦は放棄
 中国の習近平国家主席は国賓として訪中した李氏に「歴史の正しい側(中国側)に立って正確な戦略的選択をしなければならない」と語り、歴史問題での反日共闘を呼びかけた。記者会見で李氏は「(習氏の話を)孔子の言葉として聞いた」と受け流し、中国の日本批判に同調しなかった。
 奈良での日韓首脳会談でも、李氏は歴史問題で日本批判を行わなかった。高市早苗首相は、戦時中に山口県の炭鉱事故で犠牲になった朝鮮人と日本人労働者の遺骨のDNA鑑定実施を表明し、李氏に配慮した。
 思い出すのは、日本のアジア侵略をわびた村山富市首相の談話からわずか3カ月後の1995年11月、中国国家主席として初めて訪韓した江沢民氏と金泳三韓国大統領が共同会見で口をそろえて歴史問題で日本を非難した姿だ。隔世の感がある。
 一方、昨年10月19日、李氏は、多数の犠牲者を出した1948年の麗水・順天事件77周年を迎えて、反乱を起こした軍人らを「国民に銃口を向けよとの不当な命令に立ち向かった」と称賛し、鎮圧過程で「数多くの軍人と民間人が犠牲になった」と語った。反乱軍が英雄で、それを鎮圧した正規軍が虐殺者であるかの歴史観だ。
 実態は、済州島で共産主義者らが武装蜂起し、麗水・順天に駐屯していた国防警備隊第14連隊がその鎮圧を命じられたが、将兵2千余名が命令を拒否して軍や警察、官吏、与党党員などを殺害し、全羅南道東部地域を占領した反乱事件だ。鎮圧の過程で反乱に関係ない民間人も犠牲になった。
 また昨年12月15日、李氏は、1948年の済州島事件の鎮圧過程で部下に暗殺された朴珍景連隊長の国家功労賞受賞を、すでに手続きが終わっていたにもかかわらず、取り消すよう命じた。左派は朴連隊長の過酷な鎮圧で民間人多数の犠牲が出たと批判するが、鎮圧にあたったのは40日間だけで、その期間、民間人の犠牲は多くなかった。国家功労賞は暗殺直後に授与された武功勲章を根拠に、規定通り遺族が申請したものだった。

 ●保守派は国民運動開始
 『反日種族主義』編著者の李栄薫元ソウル大学教授は「新しい歴史国民運動」を発足させると公表した。いま韓国で語られ、教えられている近現代史観を否定し、新しい歴史観を打ち立てないと国の将来はないという強い危機感から、会員を多数集めた運動体を組織するという。李栄薫氏は私に「中国共産党が台湾に武力侵攻した場合、韓国も台湾を守るために参戦すべきだ」と主張して、自由を守りそのために戦うことが韓国の建国の理念だと語った。(了)