5月25日、自民党安全保障調査会は、年末の安保関連3文書の改定に向けた提言案を了承した。強調されているのは、ドローンや人工知能(AI)を活用した「新しい戦い方」への対応や、長期戦を見据えた「継戦能力」である。これらはいずれも重要だ。しかし、最も重いテーマである「核攻撃をどう防ぐか」に関しては、「米国が提供する核抑止力を中心とした拡大抑止の信頼性を一層確保する」という、従来の枠組みに触れた程度にとどまる。核の脅威にどう立ち向かうかという本質的な議論が、意図的に避けられているように見えてならない。
●現実味を帯びる台湾有事の核使用
しかし現実の情勢は、もはや「米国任せ」で安心できる状況ではない。英国際戦略研究所(IISS)は5月28日、アジアの国防相らが集まる国際会議(シャングリラ・ダイアローグ)に先立ち、戦略評価報告書を公表した。その中でIISSは、アジア太平洋地域はもはや「完全に平和な地域とは言えない」と警告し、さらに「台湾をめぐる対立を踏まえれば、中国との衝突は『核兵器が使われるレベル』にまでエスカレートするリスクがある」と明言した。
もし台湾有事が起きれば、日本の政治、経済、社会インフラ、そして軍事拠点が、核による威嚇や攻撃の対象になることは十分に考えられる。日本だけが核の脅威から免れると考えるのは、あまりに楽観的だ。また、米議会調査局(CRS)は、米国の地域核抑止力の主な目的は、中国、北朝鮮、ロシアによる「局地的な核使用や核による威嚇」の抑止だと整理している。いま私たちが直視すべきなのは全面核戦争だけではない。通常兵器による戦争の延長線上で、地域を限定して核兵器が使われるという、より現実的なシナリオである。
●与党は核の脅威から逃げるな
これほど危機が迫っているにもかかわらず、与党である自民党の提言から核問題への具体的な踏み込みが見えてこないのは、情勢認識が甘いと言わざるを得ない。自民党安保調査会の大野敬太郎幹事長(衆院議員)は、提言に核の議論や「非核三原則」の見直しを盛り込まなかった理由について、「もっと高次の議論が必要なため、今回は扱わなかった」と説明したと報じられている。だが、国を動かす与党以上に、高度な議論を行う場がどこにあるというのか。核の脅威から国民を守り抜くという責任感があるのか、疑問を禁じ得ない。
核という最大の脅威から目を背けた戦略は、最悪の事態において国民を守る盾になり得ない。いま与党に求められているのは、課題を先送りせず、また世論が二分するのを恐れず、日本が再び核で攻撃を受ける事態を防ぐため、「今何をすべきか」を、正面から国民に問いかける姿勢である。(了)




