5月末に開催されたアジア安全保障会議(シャングリラ会合)の第一の意義は、米国が「米国は太平洋の国だ」と強調し、第一列島線(日本~台湾~フィリピン)沿いの「拒否的抑止」(攻撃しても成功しないと相手に思わせ、攻撃を断念させること)に焦点を当てると明言した点にある。
ヘグセス米国防長官は、中国の「歴史的な軍拡」と活動拡大に強い警戒感を示した上で、太平洋地域の同盟国に対し、防衛費の国内総生産(GDP)比3.5%水準への増額と実戦に備えた能力整備を求めた。「シャングリラ(のような会議)を減らし、艦艇と潜水艦を増やす」という発言は、会議外交よりも現実の戦力を重視する米国の現実主義を象徴している。
他方で、ヘグセス氏が中国との「無用な対立」は望まないと述べ、台湾への直接的な言及を避けるなど、昨年の会合よりもトーンを抑制したことは、同盟国にとって米国の抑止の意思をやや見えにくくした面も否めない。
●小泉氏「日本は地域連携の結節点に」
第二の意義は、小泉進次郎防衛相の演説が日本の進むべき方向性を明確に示したことにある。「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を基軸に「信頼、透明性、対話」の必要性を掲げつつ、防衛力の抜本的強化、国家安全保障戦略など戦略3文書の見直し、防衛産業基盤の強化を訴えた。さらに、防衛装備移転や政府安全保障能力強化支援(OSA)の拡充を通じ、日本を地域連携の「結節点」にすると強調した。「分断は抑止を弱め、結束は抑止を強くする」との認識は極めて妥当であり、日米同盟を基軸に、豪州、フィリピン、英国、クアッド(日米豪印)、東南アジア諸国連合(ASEAN)との連携を「点から線、線から面」へと広げるアプローチは、現実的かつ戦略的である。
また、小泉氏が、核兵器も戦略爆撃機も保有しない日本を「新型軍国主義」と呼ぶのは倒錯であるとして、名指しこそしなかったものの、中国に対して明確に反論したことも重要である。危機管理対話よりも宣伝戦を優先する中国に対しては、こうした論戦を国際会議の場で堂々と展開することが不可欠だ。
●安保の受益者から担い手へ
今回の会合を踏まえれば、日本のとるべき戦略はいっそう明白になった。日本自身の主体的な努力によって米国をこの地域により深くつなぎ留めるとともに、日米同盟を基軸としつつ、フィリピンや豪州などとの安全保障連携を面的に広げ、抑止力を多層化することが重要である。その意味で、高市早苗政権によるフィリピンとの軍事情報包括保護協定(GSOMIA)締結に向けた動きや、アジア・エネルギー・資源供給力強靱化パートナーシップ(POWERR Asia)を通じたエネルギー・資源分野の協力強化は、地域の安全保障を情報、経済、エネルギーの各側面から一体的に強化する布石として高く評価できる。
今回のシャングリラ会合は、日本が受け身の安全保障から脱し、地域秩序を支える主体として、一段と前に出る意思を示した重要な戦略的転換点になったと評価すべきであろう。(了)




