高市早苗首相による7月1~3日のインド訪問。明らかに日印関係を新たな段階に導くことに成功したと評価できよう。安全保障、経済安保、経済交流の3本柱について首脳間で基本方針を共有し、具体的プロジェクトもスタートした。高市首相初の官民ミッションであるが、150社以上という多数の企業が参加し、協力協定を締結した。産業界の熱気は明らかに高まっている。こうしたビジネスの実益以上に重要なのは、戦略的意義だ。
●地域秩序の構築へ
まず日印が戦略的パートナーとして連携を深めて、地域秩序の構築を主導する。
インドは、かつて安倍晋三首相(当時)が「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の源流となる演説を行ったFOIP発祥の地だ。高市政権は「進化版FOIP」を打ち出している。一方、インドはインド洋を軸にアジアからアフリカまでをつなぐ協力枠組みとして〝インド版FOIP〟と言われる構想を掲げている。この二つの構想を結びつけることによって、相乗効果のある相互補完的な地域秩序を構築できる。
●対中国の連携
戦略的意義で大きいのは、対中国を念頭においた連携だ。
まず中国へのけん制にもなり得る防衛協力での成果だ。海上自衛隊艦艇に搭載されている通信アンテナ「ユニコーン」のインドへの輸出で基本合意したのは大きな前進だ。日印が2015年に防衛装備品の移転協定に署名して以降、初めての輸出となる。
また今回は経済安保に特化した共同宣言をまとめた。レアアース(希土類)の輸出規制をする中国を念頭に置いて、「経済的威圧への深刻な懸念」を表明した。そして具体的な協力分野として、エネルギー、半導体、重要鉱物、情報通信、医薬品の五つを特定した。
インドは人口が多く、市場として成長が見込まれるだけではない。重要な経済安保上の戦略的パートナーであって、サプライチェーンの強靭化でも連携する必要がある。日本とも相互補完的で、半導体の設計や人工知能(AI)、量子技術における協力でもインドの価値は大きい。
エネルギー安保では、モディ首相の看板政策であるバイオガスのプロジェクトを協力の目玉とした。これはインドのエネルギー自給率向上、中国依存度低減に寄与する。
中国は「協力を表看板に対立を扇動したりすることは許されない」と反発した。これは対中国を念頭に置いた外交に成果があった証左だ。
●米印の橋渡し
見逃がしてはならないのは、日本が米印関係の橋渡しをする戦略的意義だ。
インドはトランプ政権との関係がぎくしゃくしてきた。日米豪印の枠組みであるクアッドもトランプ政権下では首脳会談の調整に難航している。FOIPを実効性あるものにするうえで、米印を繋ぐのは日本の重要な役割だ。今回の首脳会談では、米国に対してアジアへの関与を働きかけることの重要性を踏まえ、クアッドの実践的な協力を進めていくことで一致した。
こうして見ると、今回の首脳会談で日印は、相互に不可欠なパートナーになる新たな段階に踏み出したと評価できよう。(了)




