中国は7月6日、海軍の戦略原子力潜水艦(SSBN)により潜水艦発射型戦略ミサイル(SLBM)を太平洋公海に向けて発射、正確に予定海域に着弾させたと公表した。これは2024年にロケット軍がサイロ装填用の大陸間弾道ミサイル(ICBM)を太平洋公海へ実射したのに続く、ミニマムエナジー軌道(最も効率的な飛翔パターン)による戦略核ミサイルの発射であり、「トライアド」(核の陸海空3本柱)確立へ向けた核戦力整備の一環である。
●日本通過の飛翔も計画
中国は今回の発射前に、A、B2パターンのノータム(航空情報=NOTAM)を発している。そこから予測される飛翔経路は、Aは中国東部の渤海湾から日本上空を通過、Bは中国南部の海南島北東沖からフィリピン上空を通過し、着弾予定地はいずれも7200キロ離れた太平洋上である。
Aの場合は、日本に対する威圧となる一方、日本にミサイルのテレメトリー(飛翔データ)を収集される時間が長くなる。Bの場合は、海南島にJin(晋)級SSBN部隊の亜龍海軍基地が存在するため、基地でのミサイル搭載から出港、発射地点への移動まで、実戦に即した発射が可能となる。
今回、日本政府は、日本上空通過はなかったと発表しており、Bの飛翔経路で発射された模様だ。日本への威嚇のためにA経路を設定した可能性のほか、実際にA、B両方の発射海域にSSBNを配置し、実戦時には南シナ海と渤海の両方から同時発射できるよう発射手順を訓練した可能性も考えられる。
●戦略原潜巡回の実効性を証明
中国は現在、射程7200キロのJL-2(巨浪-2)と1万キロ以上のJL-3(巨浪-3)の2種類のSLBMを保有しており、2023年版米国防総省報告書ではJL-2のみならず、JL-3もJin級SSBNに配備中と記載されている。
今回使用されたミサイルについて、台湾の顧立雄国防部長(国防相)はJL-2との見方を示しており、そうだとすれば、運用部隊がミニマムエナジー軌道により実際に発射をした、すなわち実戦に即した発射が行われことになり、JL-2搭載のSSBNによる戦略パトロールの実効性を示したものといえよう。
JL-3を使用しなかったとすれば、最新型SLBMのテレメトリー信号を捕捉されたくなかったためかもしれない。またはJin級SSBNはもともとJL-2用に設計されており、これまでの発射実績からより成功率の高いJL-2を選択したのかもしれない。しかし、今回JL-3が発射されなかったとしても、それによりJL-3がJin級に配備されていないと見るべきではない。JL-3搭載SSBNであれば、第1列島線(日本~台湾~フィリピン)を横切って太平洋に出なくても、南シナ海から米本土を射程圏内に収めることが可能で、より大きな脅威となるからだ。
●非核三原則の見直しを急げ
今回、中国は、核戦力の技術的な確認と共に戦略パトロールの実効性を証明し、米国に対する核抑止力をアピールした。中国から「新型軍国主義」と非難されている我が国が中国のトライアド確立にどう対処していくのか、非核三原則の見直しも含め、幅広く検討を始める時期は来ている。(了)




