国基研理事長 櫻井よしこ
福島第一原発から半径20km圏内の警戒区域への住民の一時帰宅が10日から始まる。避難所生活はお年寄りには重い負担である。働き盛りの世代は 仕事も出来ず将来の生活不安がのしかかる。だからこそ、わずか2時間の一時帰宅でも、発表されると歓声が上がった。
住民を避難所生活から解放する工夫を
放射線治療の専門家で静岡県立がんセンター総長の山口建氏は、いま新しい発想が必要で、避難所生活から住民を解放し、自宅に戻す方法を考えるべきだと指摘する。
一般人の被爆許容量は現在、年間で自然に浴びる2.4mSvの放射線に1mSvを加えただけの厳しい基準となっている。他方、事業者、つまり、 原発や病院で働く専門家たちの被爆許容量は「5年間で100mSv(年平均で20mSv)、または1年で50mSv」とされ、二重構造だ。専門家の被爆量は一般人よりもはるかに高く設定されているが、それで危険はないと判断されているのだ。
被爆量の科学的根拠
そもそも人類は自然界や原水爆実験、或いは医療目的で多くの放射線を浴びてきた。CTスキャンでは、1回毎に6.9mSvの線量を浴びる。1年に3回で年間許容量の20mSvを超える計算だ。PET検査一回でおよそ3.5mSvを、X線CTを組み込んだPET/CT検査では十数mSvを 浴びる。
であれば、福島で、年間1mSvまでとする厳しい基準を守ることで、結果、お年寄りが避難所で亡くなり、働き盛りの人が働くことも出来ずにいる現状を産み出しているのは矛盾ではないか。多くの症例と知見から住民に医療従事者に近い年間20mSvの基準を適用しても問題はないと言えるのであるから、本人が望めば自宅で暮らせるように方針転換する方が余程健康的だという専門家の指摘は説得力がある。
具体的な対処方法
但し、①各人に医療従事者と同じ放射線量測定記録のバッヂをつけさせる、②一家に一台線量計を備えさせる、③子供のいる家庭には特別措置を講じる、などが欠かせない。
①は各人の厳密な健康管理に必須だ。たとえば20mSv近くになったら年間限界値を超えないように、東電や国の負担でひと月くらい地域を離れてもよいだろう。
③は40代以上の大人への影響は殆ど心配ないが、子供たちに対しては地域毎の放射線量に基づくきめ細かな対策、安全な地域に移るなどの措置を講じることも大事だ。
放射能の人体への影響について明確な基準が確立されていない中で、症例と体験に裏打ちされた医療者の声に耳を傾けたい。(了)
PDFファイルはこちらから
第88回:強制的一律避難区域設定を再考せよ!(櫻井よしこ)