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島田洋一

【第89回】ビンラディン殺害が浮き彫りにした情報・司法体制の不備

島田洋一 / 2011.05.16 (月)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

日本政府は5月2日、米軍特殊部隊によるオサマ・ビンラディン「殺害」を「歓迎」し、「国際テロの防止と根絶に向け、情報収集を含め、一層の対策強化を指示した」とする首相談話を発表した。が、米軍同様の急襲作戦を行う政治的意思を欠く点はさておき、その情報収集体制も司法体制もいまだ重大な欠陥を抱えている。

ブッシュ政権の貢献―「強化された尋問」と特別軍事法廷
米軍には、ビンラディンの居所さえ分かれば、急襲し殺害する能力は常にあった。カギは情報であり、パネッタCIA長官は、ブッシュ政権が一部テロリストに実施し、オバマ大統領が批判して止まなかった「強化された尋問」が、密使の特定という決定的情報につながったと認めている。

尋問のみならず、その後の司法処理の段階でも、テロリストを一般の手続きとは別に扱う仕組みが必要だ。よく反面教師とされるのは、クリントン政権が、世界貿易センター爆破事件(1993年)の首謀者を普通に起訴したため、弁護側が求めた共犯容疑者名簿の提出に検察側が応じざるを得ず、捜査情報がビンラディンらに漏れたとされる事例である。そこでブッシュ政権は、国外にテロリスト収容所を維持するとともに、公開を要しない特別軍事法廷を設置した。

オバマ大統領はこれを批判し、収容所の閉鎖、米国内に移送しての裁判を公約したが、結局、方向転換を余儀なくされた。問題は日本である。「特別裁判所」の設置を禁じた憲法第76条2項に縛られる限り、クリントン・オバマ的対応を取る他ない状況が続こう。

「強化された尋問」を行う専門情報機関を
ラムズフェルド元国防長官は、回顧録の中で、「強化された尋問」の意義を強調しつつ、それを軍が行うことには反対したと述べている。軍は、特にイラクやアフガニスタンの場合、拘束した何万人ものテロ容疑者にさまざまな部署で対応せねばならない。一方、CIAは、アルカイダ幹部と目される少数の相手に的を絞って行動する。

「高度に訓練されたCIAのプロの尋問官たちが、整った環境下で、非常に限られた高価値のテロリストに行う場合には適当であっても、軍の人間が用いるには適当でない手法がある」。軍の尋問マニュアルは、緊張下でも乱用の危険がないレベルに留めねばならない。同時に、軍や警察には許されない特殊な尋問を行う情報機関が、国際テロとの戦いでは不可欠になるということだ。(了)

PDFファイルでご覧ください。
第89回:ビンラディン殺害が浮き彫りにした情報・司法体制の不備(島田洋一)

 

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