公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

島田洋一

【第99回】六者協議再開を誘う対北支援に反対せよ

島田洋一 / 2011.07.25 (月)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

7月22日、2年7カ月ぶりに北朝鮮の核問題に関する六者協議の南北朝鮮首席代表が会談した。米政府内には、北が求める食糧支援に応じ協議再開につなげようとの動きもある。

7月12日、拉致議連・家族会・救う会訪米団(筆者も参加)と面談したキング北朝鮮人権問題特使は、「食糧支援は北によるモニター(監視員)受け入れが条件となる。例えば、支援前と支援後に子供たちの腕の太さを測り、本当に口に入ったかどうかを確認する」などと述べた。

「呼び水」が生む追加譲歩の連鎖
これは危うい姿勢だ。北は、「計測用」の少数の子供にのみ食事を与え、あとの食糧は秘密警察等に回すだろう。「別人のようにふっくらしたでしょう」と別人を出してくるかも知れない。それが予想できないほど、キング氏がナイーブとは思えない。あえてだまされても、とにかく交渉を始めたいのだろう。

しかし、交渉開始の「呼び水」は、往々にして、援助提供側の追加譲歩の「呼び水」となる。実績作りを焦った、ブッシュ前政権末期におけるライス(国務長官)=ヒル(国務次官補)外交の止めどない堕落は記憶に新しい。

とりわけ大きな誤りは、2005年9月のマカオの銀行バンコ・デルタ・アジアへの発動直後から「波及効果が大きく、途方もなく効いた」(グレイザー財務次官補)金融制裁を、六者協議を進めるカードとして安易に放棄したことである。

有害無益な食糧供与
テロ資金対策担当のグレイザー次官補は訪米団に対し、現在は中国の十幾つの銀行が北の闇資金の流れに関与しているとし、「問題は中国だ」と明言した。中国がエネルギー供給を止めれば、北はウラン濃縮用の遠心分離機を動かせなくなる。ここでも問題は中国だ。その中国が「議長国」として善意の第三者を装う六者協議は、今や猿芝居を越え、有害無益の度を増している。

北朝鮮への食糧支援は、餓えた民衆の口には入らず、国家安全保衛部など抑圧側の体力維持に使われる。それゆえ非人道的だと、訪米団と面談したロスレーティネン下院外交委員長(共和)は強調した。「来年の金日成生誕100年を控え、(指導部には)エリート層の忠誠を買う食糧がいるのだろう。手を貸してはならない」と、同委員長の補佐官で朝鮮問題に詳しいハルピン氏も語った。

北は、核ミサイル開発や強制収容所管理の資金を回せば、国際市場でいくらでも食糧を調達できる。北への食糧供与は、間接的に核開発や収容所運営を支援しているのと変わらない。

時機を逸せず、日本の首相や外相が米政府中枢に対し、有害無益な六者協議再開のため有害無益な支援を行う愚を犯さぬよう明確に意思表示せねばならない。というより、そうした意思表示のできる人物を早く首相や外相に据える必要がある。(了)

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第99回:六者協議再開を誘う対北支援に反対せよ(島田洋一)