公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

西岡力

【第100回】拉致問題を政権延命に利用するな

西岡力 / 2011.08.01 (月)


国基研企画委員・東京基督教大学教授 西岡力

菅直人首相が自らの政権延命策として北朝鮮訪問を模索している。首相の意を受けて中井洽・元拉致問題担当相が7月21日と22日に、中国長春で北朝鮮の宋日昊・朝日国交正常化交渉担当大使と極秘接触をした。政府の拉致対策本部の職員(外務省からの出向者)が同席した。拉致問題で進展はなかったが、話し合いを続けることで合意したという。

中井氏は訪中直前に政府首脳(枝野官房長官と思われる)と会い、首相訪朝に向けた事前調整をしていた。中井氏と宋大使との接触はそれ以前に第3国で数回持たれていた。外務省は中井氏ラインの接触を今春まで知らされておらず、「拉致被害者が全員帰ってくるなら別だが、政治パフォーマンスなら世論や党内の理解は困難だ」(外交筋)と批判している。

北は対日接近に前のめり
以上が、産経新聞が26日以降にスクープ報道した主たる内容だ。今回の中井、宋両氏の接触については、産経新聞だけでなくフジテレビも事前に知っていて、中井氏一行は日本出発の時から飛行機内までずっとフジテレビの隠しカメラ取材を受けている。筆者は7月上旬ごろから日朝秘密接触の情報に接しており、産経の報道内容が大筋で正しいことをつかんでいる。

ただし、中井氏と首相らは接触そのものを完全に否定している。中井氏は自身の生地である長春を個人的に訪問したものであり、北朝鮮との接触はなかったと強弁し続け、対策本部職員も休暇を取って案内をしただけだとしている。

このことからまず分かるのは、北朝鮮側が退任間近の菅首相との交渉に応じるくらい対日接近に前のめりになっているということだ。日本、米国、韓国などが行っている経済制裁が効果を上げだし、年間数億ドルという金正日の統治資金が枯渇し始めるなか、来年の金日成生誕100周年行事や正恩後継体制整備のため対日交渉に向かわざるを得なくなってきたのだ。

訪朝あきらめぬ首相
北朝鮮の対日交渉の目標は2段階ある。短期的には制裁の緩和と食糧支援であり、最終的には国交正常化に伴う1兆円以上の資金獲得だ。彼らはレームダック化した菅政権でも第1の目標は達成できると読んでいるのではないか。

特に8月中にも最高裁判決が出ると予想されている朝鮮総連中央本部差し押さえ問題で、菅首相との政治取引を目指している可能性がある。

なぜ、秘密交渉が漏れたのか。筆者は、政権延命のために拉致問題を利用する菅首相の姿勢に反発する政府内官僚勢力による意図的リークと判断している。しかし、菅首相はまだ訪朝をあきらめていないという。拉致被害者救出のためにも、辞任を表明した首相が外交を主導する異常事態を一刻も早く終わらせなければならない。(了)

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第100回:拉致問題を政権延命に利用するな(西岡力)
 
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