公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

大岩雄次郎

【第110回】「円高=悪者」の呪縛を解け

大岩雄次郎 / 2011.10.11 (火)


国基研企画委員・東京国際大学教授 大岩雄次郎

超円高あるいは歴史的な円高と言われ、日本経済への悪影響が懸念されている。従来の円高時と同様、輸出企業や関連の中小企業などから円高の是正を求める声が高まっている。しかし、本当に円高なのか。円安によって日本経済は再生できるのか。

今は円高とは言えない
名目為替レートで見て戦後最高値の円高となった最大の理由は,デフレの定着により諸外国にくらべて物価上昇率が低かったためである。しかし、実体経済に影響を持つ実質実効為替レート(単なる対ドルレートではなく、物価調整後の日本と各国とのレートを日本との貿易額で加重平均したもの)で比較すると、リーマン・ショック以降円高に動いたが、為替レートは依然1995年水準であり、特段の円高とは言えない。

財務省の2011年上半期貿易統計によると、輸出総額に占める対米輸出額は14.4%、対中国輸出額は20.0%、対欧州連合(EU)輸出額は11.6%であり、対ドルの為替相場水準だけで円の為替相場を判断するのはバランスを失する。直近の円高は、欧米の経済の先行き不安から、日本が相対的に健全とみなされていることによるものである。

特段の円高でもない実質実効為替レートの下で日本の産業が外国市場で競争できないとすれば、問題は為替レートではなく、わが国の経済の国際競争力の低下にあると言える。

為替介入より抜本対策を
日本経済は、見る角度を変えると、実は、2007年以降も高い名目成長率を達成している。いま、1ドル=80円とすると、2009年の円建て名目国内総生産(GDP)は470兆円、2010年は479兆円、2011年も479兆円程度で停滞しているように見える。しかし、米ドル換算でみると、2009年は5.02兆ドル、2010年は5.45兆ドル、2011年は5.98兆ドルとなり、約8%の成長となる。

2006年のサブプライムローン問題に始まる金融危機以降、円ベースでの付加価値が減少したことが日本経済の停滞を強く印象付けている。そこで見えてくるものは、円高ではなく、ドル安の姿であり、世界経済の構造変化の進行である。

円高から利益を受けるか損失を被るかは個々の産業・個人によって異なるが、国内生産物は高く売れ、外国生産物は安く買えるわけであるから、総体としては、円高はメリットをもたらす。本来、円安は日本の資産の安売りに過ぎない。したがって、日本経済低迷の根源は、その円高を国益にできない経済構造と、経済成長の世界戦略の欠如にある。

短期的な円高阻止の為替介入を繰り返すのではなく、長期的に、円高でも円安でも業績が影響されない円建てで貿易するグローバル企業の育成を図ることと、円相場に振り回されない経済環境を整備する政策こそが必要とされる。そのためには、より自由な国内競争市場の育成、法人税の減税、自由貿易協定(FTA)推進による双方の関税の引き下げにより、企業のグローバルなビジネス展開を支援する政策が求められる。(了)

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第110回:「円高=悪者」の呪縛を解け(大岩雄次郎)