国基研企画委員・東京基督教大学教授 西岡力
新政権は不安定
4月15日、北朝鮮では金日成生誕100周年行事として軍事パレードが行われ、大陸間弾道ミサイルらしきものが公開された。そこで金正恩が演説し、民生を犠牲にして核ミサイル開発と対南工作を続ける「先軍政治」を継承することを宣言した。
金正恩は昨年末の軍最高司令官に加え、4月11日に党第1書記、13日に国防委員会第1委員長という最高権力者に就任した。しかし、新政権はいまだ不安定だ。党人事で、治安関係3首脳の崔龍海・軍総政治局長を最高幹部の政治局常務委員に、金元弘・国家安全保衛部長と李明秀・人民保安部長を政治局員に抜擢したことにも、反対勢力への不安を読み取れる。
13日のミサイル発射は数分で爆発という惨めな失敗に終わった。また、韓国総選挙で頼みの左派勢力が惨敗した。独裁体制維持に必要な年間10億ドル前後の外貨調達という難題もある。
韓国で従北勢力との闘い続く
4月11日の韓国総選挙で与党・セヌリ党が過半数の152議席を確保した。1ヵ月前までは与党の大惨敗が予想され、野党が憲法改正ラインの200議席を取るかどうかが焦点と言われていた。ところが、保守系新聞とインターネットニュースなどが、盧武鉉前大統領一家の不正蓄財疑惑のほか、済州島基地建設反対運動家が韓国海軍を海賊と罵倒したこと、野党勢力の背後に北朝鮮と直結する地下勢力が存在することなどを次々に暴露し、女性国会議員が中国の脱北者強制送還に抗議する断食座り込みを行ったこともあって、雰囲気が一変した。
野党の反財閥攻勢に負けて福祉ばらまきの公約ばかりを強調していた朴槿恵氏が率いるセヌリ党も、野党の従北性を問題にし始めた。選挙戦最後に、ソウルで野党統一候補として出馬した若手政治評論家が過去、女性・老人差別やキリスト教罵倒の発言を行っていたことが暴露されるなどして、与野党伯仲選挙区で野党票が減り、セヌリ党圧勝を呼んだ。しかし、12月の大統領選挙で従北候補が勝つ可能性はまだ十分にあり、そうすれば金正恩政権へ潤沢な外貨が韓国から送られるという悪夢が実現する。
北朝鮮を支える日本政府
わが国政府は北朝鮮のミサイル発射を非難しているが、核ミサイル開発の資金と技術が朝鮮総連によって北朝鮮に運ばれてきたことを放置しており、その主張には説得力がない。現在、許宗萬責任副議長ら6人以外の総連幹部は自由に北朝鮮を往来できる。他の副議長は1ヵ月に1回程度のペースで代表団を率いて公然と訪朝している。
また、お金の持ち出しも10万円以上は届け出が必要だが、持ち出し制限はない。財務省に届けられた金額によると、昨年12月から2月までに何と1億3千万円が北朝鮮に運ばれている。現行法規の枠内で政府が決断すれば、人とカネの流れを止める制裁は可能だ。それなのにミサイル発射後も、民主党政権は追加制裁を一切発動していない。金正恩政権の先軍政治をわが国が支えるという異常な構図ができている。(了)
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第137回:金正恩先軍政権を助けてはならない(西岡力)