公益財団法人 国家基本問題研究所
https://jinf.jp/

今週の直言

西岡力

【第158回】韓国保守派は李大統領を諫めよ

西岡力 / 2012.09.18 (火)


国基研企画委員・東京基督教大学教授 西岡力

李明博大統領の突然の竹島訪問と天皇陛下への礼儀に反する発言をきっかけに、日韓関係が悪化している。少なくとも日本人の対韓感情は昭和40年の国交正常化以降で最悪になった。

歴史認識の一致を求める愚
これは、李大統領が日本に対して無理やり歴史認識の一致を要求してきたことを原因としている。日本は竹島の領有権主張を一度も下ろしたことはない。日本が右傾化して領有を主張し始めたという韓国の一部の言い分は根拠がない。

李大統領は平成20年に来日して天皇陛下に訪韓を招請した際には、先月の発言とは違って、訪韓の条件に独立運動家への謝罪を付けなかった。伊藤博文を暗殺した安重根は韓国では英雄だが、日本では国家指導者を殺害したテロリストだ。天皇陛下は日本国の中心であり、それが日本の国柄だ。陛下への礼を失する発言は日本国民全体を冒瀆ぼうとくするものであることを李大統領は理解していない。

ただし、両国関係は経済レベルでは悪くない。日本は国交正常化以来、全斗煥政権まで過去の清算を含む経済協力を実施し、それを韓国は有効に活用して経済成長を遂げた。貿易でも、韓国の日本からの輸入品の大半は素材、部品、設備で、それを使って韓国は輸出製品を生産するという、お互いに利益になる関係を維持してきた。

安全保障面では、日韓は自由、民主主義、人権の価値観を共有し、米国と軍事同盟を結ぶ準同盟関係にある。北朝鮮の世襲独裁政権と中国の一党独裁政権に対峙するという点で共通の敵を持っている。従って、日韓が対立すると北朝鮮と中国が利益を得る。

主敵は北朝鮮
私たち国家基本問題研究所は、韓国による朝鮮半島の自由統一こそが日本の国益にかなうという提言を出し、日韓の戦略的連携のため努力してきた。韓国の保守派との交流も積み上げてきた。韓国の愛国保守運動団体、国民行動本部は「我々の主敵は北朝鮮政権であって、日本国民ではない」という意見広告で、「日本政府の無理強いには堂々と対処するが、健全な日本国民まで反韓嫌韓に回わらせないような知恵を発揮しよう」と訴えた。また、何人かの保守派知識人が同趣旨の論説を発表している。

ただ、それらの議論も、日本国民が何に怒っているのかを正しく把握していないように見える。今回の関係悪化は、李大統領が不適切な言動を取ったために起きたものだ。特に天皇陛下への礼を失する発言は日本人の心を大きく傷つけた。国が違えば歴史認識や領土をめぐる主張が異なるのは当然だ。韓国の友人たちが日本と日本国民を友人と考えるのなら、馬鹿げた言動を取った大統領を諫め、日韓で歴史認識の一致を求めないことで一致しようではないか。(了)

PDFファイルはこちら
第158回:韓国保守派は李大統領を諫めよ(西岡力)