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島田洋一

【第159回】「尖閣」緊迫を機に対中政策の戦略的転換を

島田洋一 / 2012.09.24 (月)


国基研企画委員・福井県立大学教授 島田洋一

尖閣諸島の奪取を狙った中国の動きは、日本自らが、軍事力を含むあらゆる手段を用いてしりぞけねばならない。その態勢が出来て初めて、日米同盟の抑止力も追加的に生きてくる。中国側は習近平(次期国家主席?)以下さまざまなレベルで、アメリカに対し日米安保条約5条(武力攻撃に共同対処)を尖閣に適用せぬよう圧力をかけている。日本側は逆に、領有権も含めて日本の立場を全面支持するよう米政府に働き掛けて然るべきだが、実際には、日本を支持する米側内部の動きを漫然と見送るなど無為が目立っている。

実効支配と領土主権
9月20日、キャンベル米国務次官補が上院外交委小委員会において、「尖閣の最終的な領有権については特定の立場を取らないが、日本が実効支配を維持しているとわれわれは明確に認識しており、その意味で、尖閣は明確に日米安保条約5条の適用範囲に入る」と米政府の立場を改めて示した。

ここでウェブ委員長が「米政府は、琉球諸島に対する日本の主権を認めるよう中国に公式に求めているのか」と興味深い質問をしている。キャンベル氏は一言「ノー」と答えて沈黙、落ち着かぬ表情を見せたが、ウェブ氏は深入りせずに次の質問に移った。

ウェブ氏は以前も、「中国はまだ公然と尖閣諸島の主権を主張している。更に言えば中国共産党は、沖縄を含む琉球列島に対する日本の主権を一度も公式に認めていない」と国務省により強い対中外交を促す趣旨の発言を行っている(2009年7月15日、上院外交委員会公聴会)。この2009年の公聴会ではある中国専門家が、領土紛争不介入という国務省の原則は分かるが「尖閣は米政府が沖縄とともに日本に返還した経緯があり特別」と証言してもいる。

日米協力強化と日本が為すべきこと
米政府は、第2次大戦後の沖縄占領統治に当たり、尖閣を含む琉球諸島に日本の「残存主権」(日本以外のいかなる国にも主権を引き渡さない、の意)を認めたが、沖縄返還協定(1971年調印)の上院審議を前にして、尖閣のみは「残存主権」の対象外(施政権は日本に渡すが主権については判断せず)と立場を変えた。当時、米中接近政策を進めていたニクソン政権が対中配慮から取った措置といわれている。

安保条約5条の対象と米側が明言するだけでも、日本にとっては大きな対中カードである。しかし、上記の経緯も踏まえれば、自由主義の同盟国と全体主義の敵性国が対立を尖鋭化させる中、領有権も含めて同盟国支持をより明確にするよう日本が米側に求めても何ら筋違いではない。(実際アメリカは、北方領土問題では、冷戦戦略の一環として日本支持を明確にしてきた。)

そのとき米側からは、日本に「同盟国」と言える内実が備わっているのか、北京と喧嘩しろと米国に言う以上、日本はまず集団的自衛権の憲法解釈ぐらい改めたらどうか、南西諸島の軍事拠点化にはいつ踏み込むのか、など厳しい注文が出されよう。それこそ望ましい展開であり、日本が真摯に応えることで同盟に内実が伴っていく。同時に、2010年のレアアース禁輸のような中国の経済テロに各個撃破されぬよう、日米は「脱中国依存」を戦略的協調の下に進める必要がある。(了)

第159回:「尖閣」緊迫を機に対中政策の戦略的転換を(島田洋一)