公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第163回】緊迫するイラン情勢に目を向けよ

田久保忠衛 / 2012.10.22 (月)


国基研副理事長 田久保忠衛

ニュースの重要性は自分あるいは自国から始まり、距離とともに減少していくのは当然だが、日本のメディアの関心は中国、朝鮮半島に集中し過ぎて、時には視野狭窄に陥っているのではないか。欧米の目はアジアと同程度、いやそれ以上に中東に向けられている。とりわけ核開発を遮二無二進めるイランへの攻撃にイスラエルがいつ踏み切るか、それに対して米国のオバマ政権がいつまでブレーキをかけ続けることができるか、息詰まるような緊迫感に包まれている。

イスラエル、来春に攻撃も
イスラエルの危機感がどれだけ切迫しているのかは、日本人には想像もできないだろう。イランのアハマディネジャド大統領は一再ならず「イスラエルを抹殺する」と公言してきた。そのイランが核兵器を手にした時、イスラエルはどう考えるか。生き延びるためには事前にたたくほかに手はない。

イスラエルのネタニヤフ首相は9月27日の国連総会における一般討論演説で、イランに対する「レッドライン」(越えてはならない一線)をどこに引くかを明らかにした。ウラン濃縮作業を3段階に分け、70%まで完了するのを第1段階、90%までを第2段階と設定し、現在のイランは第2段階に入ったとネタニヤフ首相は明言した。最終段階に入れば「早ければ数週間以内にイランは核爆弾に必要十分な濃縮ウランを確保する」から、それまでにたたく、というのである。最終段階入りが来年夏とすれば、「春」には攻撃が実施される。

オバマ大統領は大統領選挙の前であることもあって、外交と経済制裁措置によってイランの核開発は抑えられるとネタニヤフ首相を説得してきたが、生か死かを選択するところに追い詰められたイスラエルは、自衛のために決断しなければならないギリギリのところにきている。世界中が気を許している間にイランの核施設は地中の深いところに達し、攻撃が行われたとしても核計画を2、3年遅らせるだけだ。ネタニヤフ首相の焦燥感は募る一方だろう。

開戦なら日本経済に衝撃
イスラエルの攻撃にイランは黙っているはずはない。湾岸の米軍施設への攻撃が開始されたら、ペルシャ湾にはどのような事態が起こるだろうか。民間のタンカーが標的になることも十分に考えられる。イスラエルが長・短距離ミサイル攻撃を受けることを想定し、米・イスラエル両軍は約3週間の予定で過去最大規模の迎撃訓練に入った。

緊急事態が発生したら、日本経済にどのような衝撃が走るかは自明だ。国際情勢を読み解くには、東京ではなくてワシントンの視点が必要不可欠だと思う。(了)

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第163回:緊迫するイラン情勢に目を向けよ(田久保忠衛)