公益財団法人 国家基本問題研究所
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今週の直言

田久保忠衛

【第173回】 中国共産党のXデーはいつか

田久保忠衛 / 2012.12.25 (火)


国基研副理事長 田久保忠衛

 

 過去1年間の国際情勢を振り返って考えたのは、①世界の主要なプレーヤーが米国と中国の2カ国になってきた②ロシアは主役から脇役に移行しつつある③軸足をアジアに置いた米オバマ政権のピボット(軸足)政策の北東アジア部は日本の安倍晋三政権と韓国の朴槿恵政権の誕生によってようやく体制が整った―の3点だ。

 ●冷戦とは違う米中関係
 わけても米中両国を主役とするアジアには、国際政治史上例を見ない奇妙な現象が発生しつつある。経済面では、あらゆる国が中国との相互依存関係を強めている半面、これまたすべての国が程度の差こそあれ、安全保障面で米国への依存度を増しているのである。米中両国は経済関係をますます深めつつも、軍事的には警戒心を解いていない。2030年には米国を経済力で追い越すほどの勢いの中国が、軍事力を背景に国際ルールを守らないだけでなく、国内の反体制派や少数民族への弾圧を続けているところに根本の原因がある。
 「米中の冷戦構造」とか「中国封じ込め」などといった表現が新聞、雑誌、テレビに登場するけれども、イデオロギーで真っ向から対立し、ブロック経済を続けていた旧ソ連圏対米国を中心とする民主主義陣営の対立とは違う。中国は米国とイデオロギー論争を全くしていない。共産主義国家である中国は所得格差の拡大に頭を悩まし、資本主義国家である米国が社会保障などセーフティーネットの充実に死に物狂いになっているのが現実の珍現象だ。

 ●指導部延命のため対外強硬策
 その中国が対外的にも対内的にも普遍的な価値観に平気で反する態度に出てきている謎も次第に解けてきた。所得格差が一向に改まらないのと腐敗が表裏一体の関係になっており、一般大衆が共産党政権に疑惑の目を向けだしたことが背景にある。ニューヨーク・タイムズ紙は10月、11月と続けて温家宝首相一族の蓄財(分かっているだけで2200億円)を暴露した。温は中国指導者の中で最も清廉潔白な「温おじさん」として親しまれてきたはずの人物だ。
 当局がいくら情報を抑えても、コミュニケーション革命は中国で5億5000万人以上のネット人口を生んでいる。中東、北アフリカの独裁体制が相次いで倒れた「アラブの春」で明確になったように、情報の人為的操作は難しくなってきた時代だ。
 中国指導部は自分たちが生き延びるために対外強硬策に転じている実情がはっきりしてきた。その結果を2013年に目撃できるかどうか。これが年末の感想だ。(了)