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【第172回・特別版】朴槿恵氏の歴史的使命は日米との関係強化

西岡力 / 2012.12.20 (木)


国基研企画委員・東京基督教大学教授 西岡力

得票率51.55%対48.02%、108万票の差で朴槿恵候補が当選した。12月19日に行われた韓国大統領選挙の結果だ。1987年の現行憲法施行以来、初めて過半数を得票した大統領となる。女性大統領の誕生も韓国史上初めてだ。
 
従北勢力を韓国民が拒否
野党の文在寅候補は、選挙戦で「北朝鮮人権法反対、国家保安法廃止、低い段階の連邦制統一実現」という北朝鮮の路線をそのまま主張していた。それに危機感を持った保守派が、金大中元大統領のかつての側近や70年代、80年代の民主化運動家まで含めて大同団結し、朴槿恵候補を支援した。

今回の選挙は、「大韓民国勢力」対「従北左派勢力」の決戦であり、朴槿恵候補が負ければ韓米同盟破棄、連邦制統一を目指す左翼政権に対して保守勢力が実力で抵抗する流血の事態も予想されたが、韓国人の良識がそれを阻止した。

投票率が75%と高かったが、「(朴槿恵候補の父の)朴正熙元大統領に恩返しをしたい」「文在寅が勝てばアカ(共産党)の天下になる」という危機感を抱いた高齢者、低所得者、低学歴者が大挙して投票した結果だった。

全国の軍部隊と教会を巡回して韓国主導の自由統一ビジョンを講演して回っている気鋭の保守派リーダー金成昱氏は、投票前日に次のように書いていた。

「朴槿恵候補の勝利が見える。 揺れ動く世論調査支持率を見てそう言うのではない。 この3ヶ月、全国を回りながら確認した現場の雰囲気だ。大韓民国には病原菌に対する抗体が多く隠されており、それは単純な支持率の差を越えた『何か』であった」

若者が保守化
今回の選挙戦では20代の若い保守派の活躍が目立った。彼らは、庶民派を自称した文在寅候補が座っていた椅子が1000万ウォン(約80万円)もする高級品であることや、自宅が大邸宅で違法な増築までしていたことなどをネット上で次々に暴露した。それを大新聞が大きく報道し、文在寅陣営に打撃を与えた結果、庶民派という言葉が選挙キャンペーンから姿を消すという一幕もあった。

一方、左派ネットテレビ「ナコムス」が、朴槿恵候補とカルト集団「新天地」が関係しているとか、朴槿恵候補は高額をかけてシャーマンの儀礼を行ったなどという虚偽の扇動を行ったが、ネット上ですぐに事実が暴露されて逆効果を生んだだけだった。

20代が保守化した背景には、北朝鮮による2010年の韓国海軍哨戒艦天安の爆沈、韓国領延坪島への砲撃により同世代の韓国兵が戦死したことへの怒りに加え、軍隊内で韓国現代史と北朝鮮の実態に関する政治教育がきちんとなされたことが大きい。金寛鎮国防相は、左派教員組合である全教組の自虐的教育の洗脳を解かなければ北朝鮮と戦争はできないとの危機感から、徴兵に応じた若者への政治教育に力を入れてきた。

朴槿恵候補の当選は従北左派の権力掌握を防いだという歴史的意味がある。しかし、問題は当選後だ。朴槿恵氏の歴史的使命は韓国内の従北左派に果敢に戦いを挑み、韓米日3国の同盟・友好関係を強化して、朝鮮半島の自由統一へ道を開くことだが、それを避けて李明博現大統領のような中道路線を取るなら、危機が先送りされるだけだ。(了)

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第172回:平成24年12月20日 朴槿恵氏の歴史的使命は日米との関係強化 (西岡力)