誤解の余地がないよう最初に断っておくが、米共和党大統領候補として今や本命視されるドナルド・トランプ氏は政治家として全く評価できない。不快極まりない暴言も多い。しかし、その発言中、正論と言うべき部分については、日本としてしっかり受け止め、然るべき対応を取るべきだろう。
トランプ氏は3月26日のニューヨーク・タイムズ紙とのインタビューで、①米国が攻撃された時、日本は助けに来なくてよいのに、日本が攻撃されれば、米国は助けに行かねばならない。極めて不公平だ②北朝鮮の攻撃から日本を守るため、日本自身はどうするのか。そこが真の問題だ。日本の核武装? 私がどう議論するかに関係なく、日本は核兵器保有を望む方向に行くだろう―と語った。核心を突いた問題提起と言える。
●理念なき「カネ」論議の問題
トランプ氏が当選するか否かはわれわれの関与を超える問題だが、トランプ氏の警告に日本は政治的に覚醒すべきであろう。そのためにはトランプ氏にも、余りに功利主義的な姿勢を改めてもらわねばならない。
「自由の戦いのため、日米は真の攻守同盟を構築し、中国共産党や朝鮮労働党に対峙せねばならない。憲法の制約で踏み込めないなど、言い訳は聞き飽きた」。例えばトランプ氏がこう主張するなら、日米の心ある人々のほとんどが同意するだろう。ところがトランプ氏からは、米軍の抑止力を当てにしたいなら各国はもっとカネを出せ、という次元の話しか出てこない。そのため、トランプ氏が求めるのは、要するに在日米軍経費負担の増額か、と日本の政治家たちを安心させてしまいかねない。
また、今度の大統領はどこまでも損得勘定でしか動かないと全体主義国家に高をくくられるなら、世界はより不安定化するだろう。
●「予測不能」の意味
ワシントン・ポスト紙とのインタビューで、中国が尖閣諸島を占領したらどうするのかと問われたトランプ氏は、「何をするかについては言いたくない」と述べ、中国が米国の出方を予測できないようにすることが賢明な策だとの発言をしている。
かつてロナルド・レーガン大統領も、ソ連に対して予測不能であることを武器にすると語ったことがある。しかし、レーガン大統領の場合は、ソ連を公に「悪の帝国」と呼び、自由主義理念が明確なレーガンなら損得勘定抜きで軍事行動を起こすかも知れない、という意味での予測不能であった。理念があやふやでカネ論議のみのトランプ氏の予測不能は底が浅いのである。
その点、純粋保守主義者のテッド・クルーズ上院議員には理念的な曖昧さはない。「自己責任」を掲げる草の根保守運動ティーパーティが押し上げ、米国の既成支配層全般を「ワシントン・カルテル」と批判するなど非妥協的姿勢で知られるクルーズ氏が内政面でどのような政策を採るかはかなりはっきりしている。しかし、対外政策については未知の部分が多い。建設的な意味で日本に「自己責任」を求めてくれるなら歓迎だが、戦略的柔軟さを持ち合わせているのか、まだ判断し難い。(了)